新年早々、お泊まり会

 で、彰子さん、結構飲んでたと思うんだけど、酔っぱらって絡んだりとかってのは全然無くて、全然普通だった。むしろ、素面しらふの時のほうが淳ちゃんに絡んでるくらいだ。げほげほした後もしばらくぷりぷりしてたけど、なんだかんだ、この場を楽しんでるみたいだった。淳ちゃんいたしね。

 まあね、あたしも楽しかったよ。彰子さんの同居人の子はジャスミンって名前で、今夜は何かのイベントだかパーティーだかに行くって話を、彰子さんはその子から聞いてたらしい。それをあたしらも聞いて、だったら今夜はいっかー、みたいな空気になった。仲直りは明日でいい。

 よし、事務所に戻ったらあとは、淳ちゃん抜きで彰子さんと二人で女子バナしよう。おせちライスは実際けっこう量があったもんで、食べきれなかった残りはマスターがタッパーに詰めて持たせてくれた。



 風呂は、てかシャワーは、淳ちゃんに先に入らせた。それであとはプライベートスペース住居部から追い出せば、女子だけで気兼ねなくのんびりできる。というか、淳ちゃんと彰子さんの接触を断ちたかった。うん。彰子さんがメイク落としてる間に、あたしが先にささっとシャワーを済ませた。よし、これでよし。

 風呂上がりの彰子さんから、スキンケアの極意を学ばせてもらった。というか、わりとそれを狙ってた。さぞかし色んなアイテムが出てくるのかなーって思ったら、化粧水と精製オイルだけでシンプルだった。その理由とか細かいこと色々聞いた。詳しくは、ここでは割愛させていただこう。彰子さんの美貌のヒケツは、ヒミツなのだ。


 寝るときの格好についても、割愛させていただこう。あたしもお泊まりセットは密かに事務所に置いてるけど、パジャマまでは持ってきてないからね。そんで、新品のフカフカベッドの上でお話してた。素顔の彰子さんもかわいかった。そのうち布団かぶって、布団の中でもお喋りした。お喋りしながら、明日、どうやって彰子さんとジャスミンさんを仲直りさせたもんかなあ、ってことも考えてた。そんなお節介どうなの、っては思うんだけど、なんだか、そうでもしないと彰子さん、ずっと事務所に居座りそうな気がしてさ。



 いつの間にか、寝ちゃってた。どっちが先だったかはわからない。夜中、すごい音と揺れで目が覚めた。彰子さん、ベッドから落ちたっぽかった。すぐ、モソモソと布団の中に戻ってきたけど。

 それでまた寝て、気がついたらすっかり明るくなってた。朝の七時だった。彰子さんがいない。

「しまった!」

 何がしまったって、その、彰子さんあんな感じで肉食だから、目を離した隙に何するかわかんないよね? だからあたしは跳ね起きた。こっち側プライベートスペースにはいない。

「淳ちゃん!」

 バゴンとドアを開けて、事務所側に飛び込んだ。

「あら由紀奈ちゃん、おはよう」

 彰子さんの姿がまず目に入った。例の大人タイトニットワンピの上に、どっから持ってきたのか白いエプロンを着けて、応接スペースのテーブルに朝ごはんを準備してる。かいがいしいんですけど!

「おお由紀奈、起きたか」

 淳ちゃんはソファに腰掛けて、普段読まないくせに新聞広げてる。ってそれ昨日のだろ。てか何二人して、昭和の夫婦みたいな。ま、何か怪しい感じとかそういう感じはしないかな。

「どうしたの? そんな格好のまま起きてきちゃって」

「はしたないぞ。年頃なんだからな。にやにや」

「えっ、何言ってんの……って、ぎゃーっ!」

 うっかりしてた。言われてやっと気づいて、慌てて住居部に引っ込んだ。あたしがどんな格好してたかは、ここでは割愛させていただこう。



 ま、朝ごはん、ゆうべのおせちの残りだったんだけどね。あとトーストと紅茶。三食とも松屋な淳ちゃんには夢みたいな話だったかも……そう考えるとポイント高いんだよね。やられた、ってちょっとだけ思った。

 食べ終わって、彰子さん、メイクし出した。てか、それまですっぴんだった。って、淳ちゃんにすっぴん見せて平気なんだ……いいけど。いいの? まあいいや。これもまたいい勉強になるぞ、って思ってそれ見てた。淳ちゃんは皿洗いだ。

「彰子さん、それって何メイク? 気合い、とか本気、とか、あと手抜き、とか」

「ふふふ……これはね、ナチュラル本気メイク」

「本気なんだ?」

「そう、本気……だってこれからデートなんだもん」

「デート? 誰と?」

「探偵さん」

「え、ちょっと待って。なんでよ」

 抜け駆けかよ。聞いてないんだけど。

「彰子には借りがあるからな……」

 そう答えたのは淳ちゃんだった。

「借り? って?」

「クリスマスイヴの日、協力してあげたじゃなーい。歌まで歌ったんだから」

「あー……って! 昨日ここ泊めてあげたじゃん!」

「それはゆうべのご飯。おごってあげたでしょ? ね?」

「うっ。そっか……」

「そうなんだよな……」

「今日はしっかり、返してもらっちゃおっと♪」

「ぐうう……」

 タダより高いものは無いって、そういや昨日彰子さん言ってたっけ。つまりこういうことかよ。こりゃーまいった。一本とられた。付け入る隙を与えちゃった。もっと先になんとかしとくべきだったと、あたしはこっそり地団駄踏んだ。






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