新年早々、びっくりだ

 あたしが淳ちゃんとこ行くって言ったら、途端にお父さんもお母さんもお姉ちゃんもにやにやしだした。なんなんだよ。ま、お姉ちゃんが服貸してくれたからいいけど。うん、いちおう着替えようって思って自分の服見たけどあんまりいいの無かったんだよね。なんか、子供っぽいなって思って。てんでうんうん唸ってたら助けてくれた。

「背伸びしたいんでしょ、あんた。うん、わかるよー」

「ち、ちげーし。べつにそんなんじゃねーし」

「ほら、これとかどう。これとかどう」

「ふむふむ」

 やー、マキシの魔力だよね。一気に大人っぽくなった。ふふー。ウエストちょっと余ってるけど。

「あんたはもっと肉つけなー」

「うるせーうるせー」

 そんでまた、お父さんと一緒に出た。んで、すぐ別れた。

「グッドラック!」

 なにがだよ。おみくじ『凶』だったよ。親指立てんなっての。まー、結局ニットのインナーもハーフ丈なコートも借りて、髪は纏めたほうがオシャレだよー、ってんでオシャレに纏めてもらってマフラー巻いたから完璧だ。やっぱ大学生んなると気ぃ使うんだね。さすがだ。助かった。


 定期で電車乗って、事務所着いてみたら鍵閉まってた。開けて入ってみたらエアコンはついてたから、どうせたぶん松屋だ。だからすぐ戻ってくるっしょ。とか思ってるうちに、出入り口のドアががちゃりと開いた。

「なんだ。来てたのか」

 ほら帰ってきた。

「あけましておめでとー」

「ああ、ありがとうございます」

「ことしもー」

「ああ、よろしくよろしく。なんだ、今日はずいぶんとめかし込んでるじゃないか」

「まーね」

 ふふ、ふふ。

「そんな格好もするんだな。いいじゃないか」

「まーね」

 ふふ、ふふ。

「もうちょっと肉つけような」

「うるせーうるせー」

 とか言いつつ。淳ちゃんなかなかわかってんじゃん。ま、借りもんだけど。

「お正月でも松屋なのな」

「変わらぬパフォーマンスのためだ。コンディション作りは大事なんだ」

「よー言う。なんもしてないくせに」

 走るのやめたの知ってるもんね。カレーは我慢してるみたいだけど。あと、淳ちゃんはこの通り、帰省とかはしてない。しないのー、って訊いたら、まあそんなもんだ、とか言ってた。そんなもんなんだね。


「よし由紀奈、初詣行くか」

 淳ちゃんは一服つけると、そう言ってきた。あたしは事務所に届いた年賀状眺めてた。探偵事務所に年賀状って、なんかウケる。

「せっかくのお正月だもんね。よし行こー。あ、これ見なよ、イヴちゃんからの年賀状。かわいいー。さすがイヴちゃん」

 イヴちゃんの年賀状は、自分で描いたっぽい干支とかのイラスト入りだった。もしかしたら、あの二人と神社でばったり会うかもね。

「って、どこの神社行くの」

「氷川さま、かなあ」

「どこにあんの」

「近くだ、近く」

「よし行こー」

「ああ、ちょっと待ってくれ」

 そう言って淳ちゃんは、プライベートスペース住居部へ引っ込んだ。着替えるらしい。あたしの気合いコーデ(借り物)に応える気だな。いい心掛けじゃん。

「待たせたな」

「なんだそりゃー」

 例の書生スタイルだった。なんでだよ。なんだそりゃだよ本当に。

「正月だしな」

「これで何回目だよ。どんだけ気に入ってんの。お気に入りかよ」

「知的に見えるだろう?」

「瓶底メガネかけたらもっと知的かもねー」

「それもそうか」

「やめろー」

 まーいっか。似合ってないわけじゃないしね。正月だしね。

 と、そんな感じで、事務所に鍵掛けて、外に出た。うん、まあ、こうなるって読んでた。淳ちゃんただでさえ起きるの遅いし、年越しだったらなおさらだ。どうせ0時にジャンプしてたんだろうなー、って。んで、ひとりでいたら絶対、めんどくさがって初詣とか行かなかったろうなー。って。あたしが来たから、行くって言い出したんだよ。まあ、あたしも、おみくじリベンジしたかったしね。違う神社だったら、おみくじ引き直してもいいんじゃなかったっけ。

「ああ、しめ飾りも買ってこないとだなあ」

「今さら。遅くね? 売ってんのかな」

 ま、そんなこんなで、その氷川さま神社に二人で向かった。


 淳ちゃんおすすめの氷川神社までは、事務所から歩いて二十分くらいかかった。道はわかりにくかったけど、淳ちゃんはよく知ってるみたいだったし、参拝する人たちの流れもできてたから、迷うってことはまず無かったね。正月らしく普通に晴れてたってのは前も言ったっけ。でも、ナントカ稲荷よりもこっちのほうが全然混んでた。圧倒的に、ってくらいに。

「へー、っていうか、うわー、人多いね。人気の神社なんだ?」

「正月からすごいな」

「むしろ正月だからだろ。おおー、晴れ着の人もいる」

 ちらほら、花が咲いたみたいに、綺麗な着物着てる女の人の姿が見えた。

「いーねー、やっぱ晴れ着って目立つよね。きれー」

「フォフォフォ、いいもんだ」

「もしかして、それが目当てか。このスケベ」

「なぜ俳句。まあ気にするな。手を洗おう」

「冷たいんだよねー」

「誰だってそうだ。我慢だ、我慢」

 なことを言いながら、手水舎で順番を待った。こんなとこから並ぶのかー、こんだけ混んでると、イヴちゃんたちいたとしても見つけらんないなー、とか思いながら。あたしたちの前に並んでる人も晴れ着だった。振り袖で。手洗うだけでも大変そうだよね。でもいいなー。紺色? 藍色? な感じで綺麗だった。で、その人が終わって、こっち振り返った。その顔見て、びっくりしたよね。

「あら! 由紀奈ちゃんじゃない! それに、探偵さん!」

 クリスマスイヴの大作戦の時以来だったけど、年明け早々いきなりかよ、ってののほうが強かった。どういうわけか、あたしのライバル(?)に、こんなところで出くわすなんてね。

 そう、超絶美人の、彰子さん。新年早々、彰子さん。

 柏木かしわぎ彰子あきこさんが、振り袖振って、現れた。

 なんでか知らんけど、スーツケースを引きずってた。






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