サンタクロースの想い人
聖アガーテ女学院大学。略してアガ大。あたしの通ってる
「ほおお。由紀奈と同じ高校だったんだな、イヴは」
「うん」
「そして、今はその大学に通ってる、と。降矢の言った通り、学生だったんだな」
「うん」
「だいぶ絞れたな。今は三年生ってことか」
「うん」
今日はあたしは学校から真っ直ぐ、事務所に来た。そして、淳ちゃんに昨日わかったことを報告した。ちなみに、淳ちゃんのバー巡り・夜の部の調査のほうは、特に新しい情報は得られなかったらしい。ふーん。
「それじゃあ今からさっそく行ってみるか。この俺が」
「やる気じゃん。女子大だからか。このスケベ」
「なぜ俳句。まあそうだ。JKなんてジャリには興味無いが、JDならまだいける」
「現役JKを目の前にして失礼すぎな。てかなに勘違いしてんだよ。行ったら歓迎してもらえるとか思っちゃってんですかー。なんでだよ。アホか」
「えっ。違うんですか」
「行けばその目で確かめられんだろ。でも一番確かめなきゃなのは、イヴちゃんが今も在籍してんのかどーかって事だからな。忘れんなよ」
「由紀奈はどうするんだ? 来ないのか?」
「あたしはこっちで調べる」
由紀奈ちゃん
「勝負だ淳ちゃん」
あたしは威嚇と牽制の意思を込めて、両手の指をワニワニさせてみせた。
淳ちゃんはいつもの水道屋スタイルで出撃して、あたしはずっとPCとにらめっこだ。アガ大の教務課に侵入し、イヴちゃん情報を探していく。えーっと、三年生からはそれぞれの学部に分かれるんだよね――
…………無い。見当たらない。おかしい。
と、そこで思い出した。事件性の線のことだ。イヴちゃんが何か事件に巻き込まれた可能性もあるな、とか言って、淳ちゃんが彰子さんに調べてくれるよう頼みに行ったやつ。彰子さん。そう、彰子さん。
――と、その時、事務所のドアががちゃりと開いた。
「こんにちは」
ちょうどのタイミングで現れたのは、そう、その彰子さん、柏木彰子さんだった。
「へっ?」
とんだ意表を突かれたもんだから、間抜けな声が出た。そんで、やっぱ美人だ。綺麗だ。すっごいよね。ほとんど白に近いムートンの大人なダッフルコートを着てて、それがこれまたすっごい似合ってた。
「あっ、どーぞ、そこで脱いじゃっていーです。預かるんで」
「ん、ありがとう」
えへへ。モコモコとかちょっと触ってみたくて。おお、意外と軽い。そして高そう。いくらするんだろ。同じダッフルでもあたしの茶色のとはもう、雲泥ってやつだね。こっそり鼻をうずめた。毛糸洗いに自信が持てそうな匂いがした。
応接スペースのソファに座ってもらい、あたしはお茶を淹れる。座ってもすごい姿勢がいいんだよね、彰子さん。
「……そう、探偵さんは今いないのね。残念」
「彰子さんあれだよね、雪永舞依さんの件」
「ええ」
「あたし聞くけど。ってか、あたしが受けた依頼だから」
「あら、そうなの」
「うん。――それで、どうだった?」
「それなら、じゃあ、由紀奈ちゃんに報告しようかしらね」
「あー待って、いくら?」
「?」
「情報料。払うし。タダじゃもらえないからね。淳ちゃん、いくら出すって言ってた?」
「そういうこと……ふふっ。私ね、お金じゃなくて、違うものを条件に出したの」
「なにそれ」
そんなこと、淳ちゃんからは聞いてない。どういうことなんだろう。彰子さんの出した条件って何だ?
「――私と一度、食事しに行くこと」
彰子さんは、そう答えた。
「え、なにそれ。それだったら普通、淳ちゃんからお願いするアレなんじゃないの? え、どういうこと?」
「だってあの人、全然私を誘ってくれないんだもん」
ちょっと呆れたような、諦めたような。そんな顔をしながら、笑って、彰子さんは言った。
「私からだって持ち掛けたのに。応えてくれないの。どうして?」
「それは……」
淳ちゃん、いっつも「彰子ちゃんひとすじだ」とか言ってたくせに、なんだよ、逆にお断りしてたんじゃん。
「彰子さんのこと、危険だって思ってんじゃない? 危ない女だー、って」
だったら、そう思ってんのかなーって。どうなんだろ?
「あははっ。何よそれ」
「いやまー、冗談だけど……」
「間違ってはいないけどね。そう、私は、危ない女……うん、そうなの」
うん、あたしも冗談では言ってないけど。
「でもね、だからじゃあない。違うの。あの人、そうじゃあない。もっと別。別の理由があって、私に応えてくれないのよ。そう感じるの」
「……ふーん?」
「ねえ由紀奈ちゃん、私に教えてくれない? その理由。それが条件。教えてくれたら、雪永舞依さんの件、探偵さんをデートに誘うの諦めてあげる。どう?」
「教えてって言われてもなー……」
と言いつつ、あたしは内心ドッキドキだった。彰子さん、やっぱり危ない女だ!
「あなたなんでしょう? 由紀奈ちゃん。あなたがいるから、あの人は……」
ちょっと待って、これって殺気?! ひぃーっ!
「ち、違うって! 彰子さん違うよ、淳ちゃんは……!」
「違うの? じゃあ何?」
「…………淳ちゃんはね、まだ、あの人のこと、引きずってんの……と、思う」
「あの人?」
あーあ、あたし、ゲロっちゃった。うん、そうなんだ。淳ちゃんの、いなくなったパートナー。その人のことがあるから淳ちゃん、誰にもなびかないんだよ。
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