第33話 戦闘 6


 魔怪獣チースオルが砂から飛び出し、姿を現した時間は決して長くなかった。


「……!」


 

 伝え聞くオレンジ色のグラトニーよりは、身長が高いという印象だ。

 奴は振り向かない。

 振り向けない、隊長の宿ヤドを見上げている。

 超重量に足が砂にめり込まんばかりである。

 


 喰らいついてやるわ―――簡単に終わってくれる相手ではないとしても。

 装飾が細かくあしらわれた衣装、その背中が迫る。

 無防備。

 全くの無防備に見えるが―――何か―――何をしてくる?

 魔法少女ピュアコンバットの反撃を、覚悟はしていた。

 でも手の内は見せてもらうわ、魔法少女。



 赤い閃光が奔り、隊長の身体が突然砕けた。

 キィ、と金属音が衝撃のように身を駆ける。

 黒い残像が身を掠め。

 破片が―――高い風の音になり過ぎ去っていく。



「ぐッ……!?」



 黒い宿の破片は喰らわなかったが、身を捻ったコンバットとすれ違う。

 砂とは違う、黒々しい煙が砕けた宿から漏れる。

 背後では、衝突音が聞こえた。

 隊の誰かに宿ヤドのかけらが衝突したのだろう。

 ……破壊された!


「おぉ」


 グリーンの魔法少女も髪の合間から流し目を向けていた。

 私が砂から現れたことは予想外だったようで、それだけ呟いて、再び構えを取った。

 その目つきは鋭くはなく、思いのほか丸く見開かれた少女の瞳であった。



 あの少女の手は、爆発の直前まで隊長を抑えたままであり、つまり手の内に何もなかった。

 武器はない。

 すぐ脇を落ちて見たから確定だ。

 クッ……体勢さえ乱れなければ一撃くらい入れられたのに。

 砂の中で思案を続ける。



「なん……ッ にも!? 何もない? 銃は? 隊長が、いきなり燃えた? そんな……」



 そんなことまでもが、出来るのか、この魔法少女は。

 再び砂の中を旋回する。

 それ以外……動けない。

 ―――炎を?

 いや、爆発? 強固な宿は焦げたのではなく砕け散った。

 可能性を片っ端から考えながら、しかし、距離は取らなければならない。


「いや……銃が。銃もある! なら距離があるから喰らわない―――じゃあない―――クソッ」


 グラトニーよりはチョロいという可能性を考えていたのに!

 隊長の宿が壊れた以上、足止めの方法、それも失われた。

 ……駄目だ、攻撃できない!

 まだ作戦はあるか?

 いや、隊長がいないと……


「チースオル!」


 砂の上から何の攻撃があったのか呼びかけられる。

 それは自分にもわからない。

 だからこれ以上は無為だ。


「撤退よ!」





 ★★★



「―――爆発?」


 ドルギージスにも不可解さが伝わった。

 魔怪獣の故郷でも、火薬の概念はある。

 人間界のものとは違うが、それを使う種族がいる。


 しかし、それよりも視界の砂がひどい。

 奴はどこだ。

 最初から砂埃がひどかったものの―――巻き上げたのは魔怪獣側だろう。

 ちぃ……グリイデの隊を見に来たのは考えなしに選んだことだったが。

 それは本来、あの隊の作戦成功率を上げるための要素であったが


「失敗だったか?」

 

 匂い……鼻もかなくなってきた。

 戦闘開始から、火薬の匂いがし続けるだけだ。

 どんどんと重なっていく。


「ドルギーさん!」


幼げな声が聞こえた。

キツネ型魔怪獣がまた、背後にまで訪れていた。

またか、と思う反面、こんなものかという区切りもあった。


「今日はここまでか……」


 何も見えない、わからないのでは仕方がない。

 踵を返す。


 多数の銃器と、跳躍力……。

 彼はまた見に来る必要性を感じた。

 


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