第4話 都市重要ファミリアからの反強制勧誘

初めて会った時の事を思い出した。今更復讐心なんてものは無い、彼女は関係のない人間だ。母さんを殺したのはその父親と母親であって。その次に会ったのは確か・・・

「おっ、ちょっ、おおーいウィルー。聞いてっかー?」

「!」

昔の事を思い出していて、さっきからマシューが何を話しているのか一切耳に入ってこなかった。マシューは側から見れば独り言を話しているように見える。

マシューの声で一気に現実に引け戻され、今の状況を咄嗟に整理する。

「申し訳ない、考え事をしていた。」

「なんだなんだ、あの隊長に一目惚れか?」

ニヤニヤしながら肘でこちらの腕を突いてくる。こいつは本当に・・・

「馬鹿な事を言うな。」

本当に愉快な奴だな、だがこれからの冒険でこのメンタルを保てるのか?


目的地が目と鼻の先に見えた頃

「なあなあ、にーちゃん。俺んとこのファミリアに入らないか?雰囲気だだ漏れだぞ?上級冒険者ぁ。」

そこには身長2mほどの冒険者が立っていた。スキンヘッドで筋肉質、体質に恵まれている。彼の背後には仲間らしき者が立っている。


「すまないが、俺は元冒険者だ。ファミリアに入るつもりはない。」

「元冒険者ってのはステイタスの封印が必要なのは知らないのか?嘘つくなよ。なあ、この都市の風習は知ってんだろ?」


俺はステイタスの封印をまだ行っていない。この都市で安定してからギルドに申請しようと思っていた。

「風習?」

「ウィル、決闘だよ。俺聞いた事がある、ファミリア勧誘に応じたくなければ決闘に勝たなければいけない。負ければ強制的に入れさせられてしまう。」

力で捻じ伏せようってことか。

大男は拳をゴリゴリ鳴らし俺の返事を待っている。

「わかった。」


夕日が沈み夜を迎えようとしている。本来の目的地に着き、両方とも距離を取りながら構える。素手での真剣勝負、みんな緊張した面持ちだ。

俺はと言うと、こんな決闘どうでもいい、仲間なんてものはもう要らない。


「にいちゃんよー、俺手加減しねーぞ?」

大男はニヤニヤしながら小石を拾い真上へ放る。小石が地面に着地した音が決闘の開始だ。

『コンッ』

大男はこちらに向かって走り出し拳を振り上げる、俺はその場で目を瞑り彼の風が迫ってくるのを感じる。大男が間近に近づきこちらの顔に拳を近づけた瞬間、俺は目をカッと開き、拳をギリギリかわし彼の背後に一瞬で回り込んだ。

「ドゴゴゴゴ」

気づいた時には大男は後頭部を鷲掴みにされ地面に顔からねじ伏せられていた。


「なっ」

「決着はついた。」

『何だよ今の速さ、見えなかった。速すぎる』

周りの冒険者は口口にこう言う。

「すごいよ、ウィル!こんな事ができたんだね!目が一個しかないのに!!」

目をキラキラさせながら、少し鼻につく事を言ってくる。


「やはりダメか、上級冒険者はやはり強いか。」

大男は立ち上がりながら、微笑みながらさっきよりも弱々しい声で言った。


「俺たちは設立したばかりのファミリアなんだ、人数が少ないから大きなクエストを受けらんねぇ、持ち前のこの強面を生かしてもやっぱりダメだ。」

大男はデカいくせに肩を竦みモジモジし始めた。

ファミリアを結成したいのなら自由だ、だがファミリア税の支払いや定期的にダンジョンに強制任務に出なくてはならない。ファミリアに所属していない冒険者の多くはパーティを組んでダンジョンに潜ったり、クエストを引き受けたりする。


「悪いが力にはなれない。他をあたってくれ。」

俺は冷たい、いや冷たく装った。本来なら助けてやりたい。俺のガーディアンのスキルが反応し力が込み上げる。


俺は一人でその場を去ろうとした。

「ま、、待って!」

マシューが慌てて後を追いかけくる。

「ごめん、また今度な。今日は気分が乗らない・・・」

「いいって、ウィルさ君って凄いんだな。」

それだけ言ってマシューはもう何も言わなかった。


翌朝

「やはりもう封印しに行こうかな。」

部屋を出てギルドに繋がる道を歩いていると


『隊長!あれだ、あれだ!!昨日の冒険者だ!』

『いたぞ!急げ』

『おい、とっととファミリアで一番強い奴呼んでこい!』


「何だ何だ?」

レスサイドストリートを抜けた瞬間、人だかりが押し寄せてきた。獣人にドワーフ、フーマンやエルフまで。俺は脳裏にあの大男の姿が浮かんだ。

(やってくれた。)


「冒険者、ファミリア勧誘に応じないか?」

冒険系ファミリアがほとんどだ、どのファミリアも小規模だが風習上断れなく、俺は返事する暇もなく競技場に連れてこられた。


そこから一つ一つの決闘は早かった。投げ飛ばし、ねじ伏せ、殴り飛ばし蹴り落とす。中には何故かファミリアに所属していないのに決闘に参加してくるドワーフもいたが、もうどうでも良い。


何十人も投げ飛ばし、実は少々息が荒くなっている。あたりは傷だらけの冒険者で一杯になり、ようやく終わったかと思った矢先

「噂になっているよ、みない顔の冒険者が決闘の嵐を巻き起こしているってね。面白そうだ。」

「はぁはぁ、お前は」

次から次へと、俺は少し気が立っていた。目の前にいるやつは間違えなく上級冒険者。

紫色の長い髪を後ろで結び、背筋がぐっと伸びていて何処ぞの貴族みたいな男。背後には十数人もの仲間を引き連れこちらに向かって歩いてくる。


「やあ冒険者、私の名前はシャーロット・ヨルガン、ヨルガンファミリアの隊長だ。私達のファミリアはそこらのチンケなファミリアよりも規模が大きい。それはもう都市の重要ファミリアに分類される。君とは戦いたくない、私達のファミリアに来ないか?」


『ヨルガンファミリアだ・・・』

『ヨルガンに勧誘されるなんて羨ましい』

『もう俺たちに出る幕なんてないか。』

全身傷だらけの冒険者たちが口を揃えてヨルガンファミリアの勧誘を羨ましがる。


ヨルガンファミリアは都市の重要ファミリアだ、レベルC以上の上級冒険者を最も多く有し、数々の強制任務を遂行し、ダンジョンの未開拓領域への進出や調査に力を上げている。ヨルガン家の先祖は土地開拓の他にも、戦争の援助など戦闘にも力を入れていて、依頼されれば出向き、数々の戦争に勝ち星を上げていた。現代は戦争依頼は禁止されているが、名残から戦闘心豊かな冒険者が多い。

このファミリアは誰もが入隊できるような所ではない、素質がなければ門前払い、話も聞いてくれない。もしも勧誘されれば誰でもすぐに返事をする。


「ファミリアに所属する気はない。冒険者はもうやめた。」

「何故だ?勿体ないではないか。君はもっと力をつけて、もっと強い冒険者になれる。」

歪んだ笑顔をこちらに向けながら、声を荒らげる。俺の拒否の言葉に誰もが息をのんだ。

「もしかして、過去に過ちを起こした、とか?」

歪んだ笑顔から一瞬にして真顔になり引きつった目で見てくる。俺は目を見開き息を止めた。

「こんなに若くして冒険者を辞めるなんて、過去に何かあったとしか思えないな。例えばその目、とか?」

こいつは何なんだ、俺の正体はもう見透かされているのか?まさか、もしもアルテイナの子孫だと知っているのなら、俺は口封じにこいつを殺すのか。だが俺はみたいに殺しなんて・・・。俺が押し黙っていると

「ハハハハ、図星か?冗談で言っただけなんだけど。入隊拒否ということで、この隊長直々に決闘を申し込もう。」

これからダンスでもするのかの如く、右手を差し伸べお辞儀をしてくる。


「くそっ」

俺は疲れた体を無理やり構えの体勢にした。俺は闘う以外に道はないのか?普通に暮らすことはできないのか?母さん、この目は世界の為になんかならない、世界のために隠し続けることしか出来ない。だから冒険者なんか辞めて静かにしているのが一番だ。


「いい構えだ、冒険者。」

舌舐めずりをし、シャーロットは目にも留まらぬ速さて目の前まで飛んてきた。

「!!!」

迫り来る拳を間一髪で交わし距離をとる。今までとは比べものにならない、この速さはレベルAに相当する。シャーロットは速度を上げて殴りかかってくる、俺も負けじと攻撃するが防がれる。その時、

『デゥスッ』

「くっ!」

シャーロットの拳が脇腹に食い込んだ、その威力に俺の胴体は吹っ飛ぶ。

「グハァッ」

何十人と闘った後にレベルAは正直きつい、魔力が・・・。目を開放したい、でなければ本当に入隊することになってしまう。俺は無意識のうちに負けを認めようとした。闘争心なんてものは何処かに置いてきた。闘う理由なんてもう無いんだから。


シャーロットが弓矢の如く瞬時に距離を詰めてきて、俺の耳元で呟いた。

「これまでか?そのお目目を使ってみては?ここで私に殴り殺されてもいいんだぞ?そして俺は君を討伐し新たにランクアップし、莫大な金と名誉を手に入れられる。君の正体は知っている、君の兄さんもね。」

「はっ」

ゾワッとした。俺は目を今まで以上に見開いて時を止めた。

(こいつは俺を知っている。討伐される、俺をファミリアに引き込んで何をするつもりだ? どうすればいい、俺は今死ぬわけにはっ)


「本気で行こうか。冒険者、剣を抜け。」

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