第6話 flower/感謝

いつものように見上げる向かいの家に植えられた大木


いつかあんな風に地面に真っ直ぐ立って 空に向かって目一杯枝を広げることができたならって


まだ薄ら白い双葉を目一杯広げて思ってた


でも茎は太くならず


芽は下を向いて


ついには地面に倒れこんだ


地面に這いつくばりながらも


伸びていく芽はすがるように

フェンスに絡まって


十代の少年のように


向こう側に居場所を叫んだ

醜い生き方だと知りつつも


近くにいる者に蔓を伸ばして登ってく


やがて一つの洋館を丸々飲み込んで


窓に差す光を遮きった


その横を不気味そうに通り過ぎる通行人達


二階の両開きの窓が開いて


長い黒髪の少女がいう

「あなたはそのままでいいの」


嬉しいくせに


「同情なんていらない」


そういって差し伸べられた手にトゲを刺して 夜な夜な一人泣いた


朝起きたらこれは朝露だといって誤魔化した


そんな日々を繰り返していくうちに


つぼみの中で膨らんでいく想い


溢れ出して色とりどりの花が咲き洋館を彩る


一番高いところで咲いた花は


フェンスに絡まったすべての結び目と

窓の外から顔を出して微笑む彼女を見下ろして照れくさそうに呟く



ありがとう....


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