第49話 シダーの森

さっきまでピクリとも動かなかった猫は突然起き上がって剛本の方を向いた。



剛本「何だ!?」



猫「君は今、生きているオイラとの時間を歩き始めたのさ。」



剛本「お前はイシュタラか?」



猫「うーん。まぁ、そんな様なもんさ。」



猫「一度動き始めた時間はもう元にはもどらないからね。この現実は君が決めたものなんだ。」



剛本「は?一体何の話をしている?」



猫「君はこのイシュタラの国の事、何にも知らないんだろ?」



剛本「だから何だ?」



猫「それでここへ来た目的が果たせると思っているのかい?」



剛本「。。。お前には関係ない。」



剛本は猫を素通りして歩き始めた。



猫「おっと!ちょっと待ってくれよぉ!」



と、剛本の後を追いかける猫。



剛本「ついて来るな!」



猫「無理だねー!言ったろう?これは君が決めた事なんだから!」



軽快な足取りの猫。



剛本「知らん!俺はついて来るなと言っているんだ!」



剛本が怒って振り向くとそこに猫はいなかった。



猫「ほら!こっちこっちー!街へはこの先のシダーの森を抜けないといけないよー!」



いつの間にか森に向けて遥か先に猫が居る。



猫「僕が先を行って君がついて来るなら問題ないよねー?」



剛本「チッ!何なんだお前!?」



猫「オイラ、エルヴィンって言うんだ!」



剛本「そんな事は聞いてねえ!」



猫「まぁそう邪険にしないでくれよ!オイラ達、絶対いいパートナーになるぜ!」



剛本「何がパートナーだ!そんな物はいらん!」



半(なか)ば無理やりに猫のエルヴィンは剛本にくっついて森へと向かって歩いて行った。



初めは迷惑そうにしていた剛本だったがエルヴィンはイシュタラの国の事をよく知っており、この国の情報を色々聞くうちに次第に剛本の警戒心も薄れていった。



そして小一時間もすると森の入り口に差し掛かる。





エルヴィン「ここから先がシダーの森だよ。」



剛本「案内してくれるのはいいが、本気で俺について来るつもりなのか?なんの為に?」



エルヴィン「君がそう決めたからだよ。」



剛本「だから俺は何も決めてないって言ってるだろ!」



エルヴィン「シーッ!ここから先は大きな声は出さないで。。」



剛本「な、何かあるのか?」



辺りを見渡して小声になる剛本。



まだ森に入って間もないというのにまるで山深い山中にでもいるかのような雰囲気だ。



高い木々に覆われた道は薄暗く空気も重く、風も届かない。



風に揺れる葉の音がさざ波の様に上空を流れ抜けている。



エルヴィン「このシダーの森にはおっかない守護者がいるんだ。。。」



剛本「ヤバイのか?」



エルヴィン「静かにして森を荒らさなければ大丈夫なはずだよ。」



エルヴィン「ほら、森の住人達がもう君の噂を始めているよ。。」



言われてみると森の茂みのあちらこちらからヒソヒソと何か言っているのが聞こえる。。。

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