第19話 名前のない赤ン坊
少し時間を遡(さかのぼ)って部屋の外に残されたアナト
無数の声が聞こえる。。
「助けて。。」
「助けてくれ。。」
「痛い!痛い!。。」
「お願い。。助けて。。」
「殺してくれ。。」
「頼む。。」
そこらじゅうの水槽から聞こえる心の声。
間違いなくアナトに直接会話を仕掛けている。
しかし、アナトは答えない。
答えられない。
今のアナトにはじっと息を潜めて回復を待つより出来る事がない。
水槽を見ながらアナトは思う。
アナト:母様。。母様もこんな風に。。
アナト:エンキの研究を継ぐ者は必ず私が根絶やしにします。。
アナトは気が遠くなっていく。。
「。。きて」
「。。きて」
アナト「ん?」
。。。!
アナトはハッとして目が覚めた。
アナト:眠っていた?
「起きて!」
取り分け強い思念を感じるその声にアナトはギクリとした。
アナト:どこだ? 敵か?!
「こっち」
「目の前にいるよ」
見ればアナトの目の前の水槽には硫酸を注入されて溶解と再生を繰り返す一歳いかないくらいの赤ン坊が水槽の縁にへばりついてアナトの方を向いていた。
目は閉じているがハッキリと意識がアナトに向いている事が感じ取れた。
アナト→赤ン坊:お前は。。?
赤ン坊→アナト:僕は、名前ない。ここの人達は君と同じ病気。みんなチカラ出ない。治ることもない。
アナト→赤ン坊:治らない?
赤ン坊→アナト:治らない。今まで治ったの僕だけ。でも僕は小さくて逃げる。できない。
赤ン坊→アナト:一緒に逃げてくれるなら。病気治るチカラ。あげる。
アナト→赤ン坊:。。。解った。取引成立だ。
赤ン坊は頷くと額から強い電気を放ち、自ら水槽を破った。
自分の力で立つ事も出来ないその赤ン坊は水槽の溶液が溢れ出るのと一緒に床に流された。
そしてハイハイをして隣の水槽につかまり立ちをした。
水槽から出ると見る見る内にただれた皮膚が治り可愛い男の赤ちゃんになった。
ただしショウと違い、逆に『オムツ』ではない。
見た目派普通の乳幼児だ。
そして目を開きアナトを見た。
赤ン坊「病気に勝つチカラをあげる。」
そう言うと赤ン坊とアナトは光に包まれた。
光がおさまるとアナトの熱は消えていた。
能力(チカラ)の譲渡には相当なエネルギーが必要だが一番確実に素早く能力(チカラ)を渡せる。
赤ン坊の方は逆に反動で一気に衰弱し、瀕死の状態になった。
アナトは赤ン坊を優しく抱きかかえ
アナト「しはらく辛抱しろ。必ず一緒にここを出る。」
赤ン坊は弱々しく頷いた。
アナトは立ち上がるとショウの入った扉のあったあたりを見た。
その瞬間、壁の一部が消し飛んた。
アナトは能力が戻ったことを確信した。
アナト「よし、大丈夫そうだ。」
アナト:しかし、ここに捕らえられている者達は連れていけない。。
アナト:水槽から出しても先程の私と同じで動けないだろう。。
アナト:しかし。。
アナトは両手を上にかざした。
両手から巨大な稲妻がほとばしり、八方に広がり次々と水槽を破壊した。
アナト「私に出来るのはここまでだ。。」
「ありがとう。。。」
「ありがとうございます。。」
「ありがとう。。」
無数の感謝の声にアナトは見殺しにするしかない無力さを感じていた。
『病気』であるならば自陣に転送させる事も出来ない。
仲間に『病気』が蔓延してしまう可能性があるからだ。
連れ出してもその後が無いのだ。
勿論、サークルアンデットとの戦いにこの『病気』の対策は必要だが受け入れにどうしても準備がいる。
能力を渡すあるいは『食わせる』にも数が多すぎる。
アナト:他守ならあるいは。。?
アナトはさっき空けた壁の穴の方へ走った。
。
しかしそこで彼女が見たものは、ショウが突き刺され、四方から機械人形に襲われている正にその時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます