廃核の海〜ログアウトしたらゲームのキャラのままでした〜

織幸ジッタ

他守ショウ

第1話 閉ざされた世界

西暦2120年、地球は氷河期に入り2125年には完全に全球凍結した。


人々はカプセルと呼ばれる密閉コロニーを各都市に作り、地熱発電と原子力発電によって辛くも命をつないだ。


長い時を経て、氷河期が終わると大量に投棄していた使用済み核燃料の一部が氷の溶け出した海に崩落して沈み、そこから漏れ出した大量の放射能汚染物質が再生したばかりの海を死の海へと変えた。


そして数年の後、全ての生き物が絶滅したと思われていた海から謎の知的生命体が現れた。


『イシュタラ』と名乗る彼らは人類に宣戦を布告、またたく間に地上へと進出し次々とカプセルを襲撃した。


数千はあったカプセル群は数年のうちにその半分を失っていた。


人々はそれを悪魔と恐れた。


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マンションの一室、8畳程の寝室を兼ねたリビングと4畳程のキッチンと広くはないが清潔なバスルーム、セパレートになったトイレがあるだけの簡素な部屋。


外はすっかり暗くなっていた。


と、言ってもカプセルの光源の半分は内壁に取り付けられたライトによる制御された光だ。


夜と言っても空に星はなく、空を覆う全天球の外壁からの月明かり程の僅かな光が閉ざされた街をほのかに照らしている。


そんな街の様子を窓の外に眺める事のできるその部屋のベッドで年の頃二十代後半のその割に少し幼い面持ちの青年が帰ってから着替えもしていない少しよれたシャツに作業ズボンの様な格好でドカっと座りそのまま横になって目を閉じた。


目を閉じたからと言って眠るわけではない。体に埋め込んだ『インプル』という機器から直接脳に送られてくる映像を見る為だ。


それは現代で言うTVやスマートフォンの様な役割を果たしていた。


男の名は他守(たもり)ショウ。


両親を知らずに祖父に育てられたせいかあまり社交的な性格ではなく、どちらかと言うとこのインプルにどっぷりのめり込む様なインドア派の青年だ。


インプルによるショウの脳内イメージ----------


女性アナウンサー「51-18地区のカプセル10基が今朝未明イシュタラの攻撃を受けました。各地の被害状況は。。」


ショウ「うわ、酷いな。。最近こんなニュースばっかりだ。。ここもいつやられるか。。」


少しため息をつき、チャンネルを回していく。。


そしてあるゲームタイトルが出たとき、哀愁の念のこもった表情となりしばらくそのタイトルを見つめていた。


『ファーストアドベンチャー18』それはインプルから直接脳に本物とも見分けがつかない程のファンタジー世界を体験する事が出来るカプセル界屈指のVRMMORPGだ。


制作会社がサークルアンデッド社に買収されてから最初の作品になるシリーズ第18作目のそれはシリーズ初のVRMMORPGとして一大ブームを巻き起こした渾身の力作だ。


しかし、それも昔の話。


年々人も減りさらに追い打ちをかけるように現実世界のカプセルの外ではイシュタラと言う本当のモンスターが出現し被害者が増え続ける中、不謹慎だと叩かれ、もはや運営は空前の灯火だった。


ショウ自身も今はアカウントが残っているだけでここ数年、ログインすらしていない。


ショウ「もう、さすがに誰も残ってないよな。。?」


それでもログインしていなかった数年の間で何かメッセージが着ているかもしれない。


そう思い一月分だけ課金をしてログインしてみる事にした。


ショウの使っているアバターは現実のショウ自身の少年の様な見た目とは対照的だ。


鋭く赤く光る瞳、銀髪に筋肉隆々といったキャラメイクをしている。


種族は魔族。メインの職業は赤魔導士レベル99カンストとサポート職として黒白魔導士を付けていた。


装備には赤魔導士専用のレッドソーサラーローブと言う赤いローブをまとっている。


因(ちな)みにこのゲームでのこの赤魔導士という職業はいわゆる器用貧乏で何でも出来るが特に攻撃や回復が強いわけではなかった。


いわゆるメインのアタッカーや回復役になれないサポート役の職業だ。


しかし、MP回復と言う他にはない特技が重宝されてパーティに出る時には仲間を探すに事欠かない職業でもあった。


ショウは若い頃、自身の幼い見た目にコンプレックスもあって大きくて悪そうで強そうになりたいという憧れがあった。


それと同時に持って生まれた控えめで人の助けに幸せを感じてしまうと言った内面もあり、見た目と中身の全く違ったキャラメイクをしてしまっていたのである。


そんなアンバランスなキャラで久しぶりにログインした。


ログインすると『エッグハウス』と呼ばれる自分の部屋に入る。


ここで冒険の準備をして出かけるのだ。


ショウ「うおお。。懐かしいなぁ。。」


ショウ「フレンドからのメッセージは。。特になしか。。」


ショウ「ギルドリンクも誰もいないみたいだな。。」


ショウ「まぁ、当然か。。」


目の前には『タマリン』と呼ばれるタマゴに顔と小さな手足、背中に天使の様な小さな羽がついたキャラクターがぷかぷか浮かんでいる。


タマリン「ご主人様!おかえりオポー!」


と、それはログインした時の定型のセリフを言ってクルっと一回りした。


ショウ「これは相変わらずだな。。(笑)」


ショウ「さて、せっかくだし街の様子を見に行くか。。」


ショウはそう言うとコンソールを出して『デミューズ北部へ出る』を選択した。


すると一度周りが暗くなり、ドアの音が響いた。


それと同時に聴き慣れたアイリッシュを思わせるBGMが流れてくる。


そして明るくなると、どこまでも広がる広大なファンタジーの世界が目の前に現れた。

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