第55話 メインヒロインの意地

 シエルの杖の先端から炎の塊が放出され、機械人形の頭部に命中した。

 着弾した直後、マシーン・オルフレッドが赤いオーラに包まれる。


『敵の攻撃を確認。これより、殲滅を開始いたします』


 攻撃を受けて、マシーン・オルフレッドが動き出す。

 魔法の直撃によってわずかにダメージを受けたようだが、そこまで効いた様子はない。


「迂闊だな……減点1」


 こちらから攻撃しない限り、この敵は動かない。

 ならば、初撃は詠唱の時間が長く、その代わりに威力の高い魔法を発動するべきである。

 また、攻撃する前に補助魔法を十分に駆けたり、召喚獣を呼び出して老いたり……やれることはいくらでもあった。

 いきなり、攻撃をブチ込むなんて下策中の下策。悪手極まりない対応である。


『切り刻みます』


 マシーン・オルフレッドが武器の付いたうでを振るい、斬撃を放ってくる。


召喚サモン……ホワイトドラゴン」


 エレクトラがドラゴンの召喚獣を呼び出した。

 マシーン・オルフレッドの武器を受け止め、背後の三人をガードする。


「『フレイム・ジャベリン』!」


 ホワイトドラゴンが時間を稼いでいるうちに詠唱を完了させ、シエルが再び炎の魔法を発動させる。

 炎の槍がマシーン・オルフレッドに命中するが……ダメージは薄い。先ほどよりも強力な魔法を放ったはずなのに。


「効いてない……どうして?」


「よく見ろ。観察すれば、答えはすぐに出るぞ」


「…………?」


 後ろから助言をかけると、シエルはマシーン・オルフレッドを言われたとおりに観察する。

 そして、すぐに気がついた。


「あの赤いオーラ……もしかして、火属性の攻撃に耐性があるの?」


「ご名答、その通りだ」


 マシーン・オルフレッドはシエルの初撃を受けた直後、赤いオーラを身体にまとわせた。

 これにより、火属性の攻撃に対する耐性を得ていたのである。


「だったら……『ウォーターランス』!」


『ギギギギギ……損傷率12パーセント。自己修復を開始いたします』


 シエルが水属性の魔法を放つ。

 水の槍が直撃したマシーン・オルフレッドが大きく身体を揺らす。

 どうやら、それなりに大きなダメージを与えることができたようだ。


「やっぱり……赤いオーラを纏っている状態だと、水が有効になるのね!」


 シエルが喝采の声をあげる。

 嬉しそうにスカートをはためかせてジャンプしているシエルに、俺は意外な心境で腕を組んだ。


「意外と早く気がついたな……少し、退屈なくらいだ」


 俺の視線の先、マシーン・オルフレッドはまとっているオーラの色を赤から青に変えている。

 御覧の通り。

 このボスモンスターは魔法攻撃を受けるたびに、受けた属性に対する耐性を獲得することができるのだ。

 赤のオーラをまとっていれば火に強くなり、代わりに水に弱くなる。

 青のオーラをまとっていれば水に強くなり、代わりに火に弱くなる。


 弱点が流動的に変化する敵に対応して、的確に弱点となる属性の攻撃を与える。

 それがこのボスモンスターの攻略法なのだ。

 状況に合わせて、複数の属性を使いこなさなければいけないのが辛いところなのだ。


『殲滅します』


「ギャンッ!」


 マシーン・オルフレッドが強烈な斬撃を放った。

 ホワイトドラゴンが首に大ダメージを受けて、消えてしまう。耐久値が限界まで削られてしまったのだ。


「スノウ!」


「エレクトラ殿下、次の召喚獣を!」


 すぐさま、エアリスが結界術を展開。

 守りの魔法によってマシーン・オルフレッドの猛攻を防いだ。

 そうして時間を稼いでいるうちに、エレクトラが詠唱をして次の召喚獣を呼び出す。


「召喚……アースタイタン!」


「オリャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 魔方陣から現れたのは、上半身裸の巨人である。

 アースタイタン。

 召喚獣の中では屈指の防御力を誇り、魔法抵抗力も高いモンスターだ。


「私は守りに専念いたします。シエルさんは攻撃を!」


「わかったわ!」


 シエルが次々と変化するマシーン・オルフレッドの属性に、的確な魔法を浴びせかける。

 このゲームの魔法使いはそれぞれ得意な属性を持っていて、それ以外の魔法には不得手だったりするのだが……シエルは修得できる魔法の属性がもっとも幅広い。

 光魔法、闇魔法を覗いたほぼ全ての属性の魔法を使用することができる、作中屈指の魔法使いなのだ。


『損傷率50パーセントを突破。ステージ2に移行する』


 ある程度ダメージを与えたところで、マシーン・オルフレッドの口から不穏なセリフが放たれた。

 胸部にあったハッチが開いて、そこからハニワによく似た形状の小型の機械モンスターが複数体、放出される。

 ボスモンスターでたまにある、雑魚モンスターを呼び出して戦わせる奴である。

 小型モンスターは一体一体が赤青黄緑のオーラをまとっており、何らかの属性を有していることがわかった。


「私が数を減らすから、みんなは防御に専念してちょうだい!」


「承知いたしました!」


「わかりました!」


 敵が増えたわけだが……それでも、三人は慌てはしない。

 シエルが的確に指示を飛ばして、現れた雑魚モンスターを冷静に減らしていく。

 そろそろ、魔力も切れそうかと思いきや、順番にポーションを飲んで回復するのも忘れない。


「これは……本当に手助けはいらないかな?」


 戦闘前に発破をかけたのが効いたのだろうか。

 ここにきて、特にシエルが覚醒している。

 自分こそが主人公の最初の仲間……メインヒロインであると言わんばかりに、ガンガン活躍を見せていた。


『損傷率90%を突破。最終ステージに移行する』


 マシーン・オルフレッドが蓄積によるダメージによって、最終形態へ変形する。

 土偶型からドラゴンのような形状に変身するが……もはや、三人の敵ではなかった。


「まずは様子見を。攻撃パターンを見極めるわ!」


「わかりましたわ。皆さん、気をつけて!」


「無理しないでください。危なくなったらすぐに回復します!」


『殲滅シマス! ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』


 三人は最終形態となったマシーン・オルフレッドに立ち向かい、激闘の末に打ち倒した。

 結局、最後まで俺の出番はなかった。


「ハア、ハア……どう? これで文句ないでしょう……!」


「…………」


 こちらを振り返って睨みつけてくるシエルに、俺は肩をすくめて返すのであった。


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