第43話 揺れる王宮。揺れる双穹


 国王との謁見を終えて、どうにか望み通りの許可を得ることができた。

 俺は精神的な疲労感を覚えながら、エアリスと腕を組んでエスコートしながら玉座の間を後にする。


「やれやれ……本当に難儀な主君だ。くだらないお遊びは勘弁してもらいたいものだな」


「ゼノン様……本音を言うのは、まだ早いですよ。気持ちはわかりますけど……」


 廊下を歩きながら愚痴を吐く俺に、エアリスが困ったように形の良い眉を寄せた。

 ゲームの設定上、人に無理難題を突きつけずにはいられない国王の性格はわかっていたが……まともに相手にしないのが正解である。

 手持ちのアイテムで乗り切ることができて、幸運だった。


「最悪の場合、他の難題を突き付けてくる可能性もあったが……どうになかったらしい。準備が整い次第、『永久図書館』に行くとしよう」


「本当にそこにいけば、ブレイブさんを助ける手段が見つかるのでしょうか?」


「さあな……だが、そこの番人はこの世の全てを知っているというのが売りらしいからな。少なくとも、図書館の本を一冊一冊読んで方法を探すよりは確実だろうな」


「そうですね……」


「問題は連れていく面子だな。あのダンジョンには一度に四人までしか入れない。おまけに、番人がいる場所にたどり着くまでにそれなりに面倒な戦闘をしなくちゃいけない。パーティーメンバーの人選が重要になるな」


 俺とヒーラーであるエアリスは確定。

 残りの二人を誰にするかで、迷っていた。

 いつも通りのメンバーで行くのであれば、ウルザとナギサを連れていくのが定石である。

 しかし、厄介なことに『永久図書館』には、物理攻撃の効果が薄いモンスターが多数生息しているのだ。


「俺のような魔法剣士であればまだ良いが、純粋な戦士職にはキツイ場所だ。できれば、魔法使い中心のパーティー構成でいきたい」


「でしたら、ウラヌスさんを誘っては如何でしょう? ブレイブさんを助けたがっているウラヌスさんでしたら、きっと力になってくれるはずですよ」


「ウラヌスか……」


 シエル・ウラヌスはメインヒロインの一角だけあって、強力な魔法使いである。

 実際に彼女が戦った場面を見たことはほとんどないが……それでも、四天王の一人であるボルフェデューダとの戦いにも参加していたという話だ。

 足手まといにならない程度の力は身につけているだろう。


「……確かに。そもそも、レオンを助けたがっているのはアイツなんだ。せいぜい、馬車馬のように働いてもらうとしよう」


 シエルもまた王都に戻ってきている。

 彼女がいる場所はレオンが拠点としている建物だろう。ゲームにおける拠点となる場所だ。


「シエルには後で人をやって来てもらうとして……もう一人はどこで見繕ってくるかな?」


 すぐに動員できる戦力としては、バスカヴィル家傘下の隠密や暗殺者たち。つまり、裏社会の住人達だ。

 彼らは戦闘能力こそ高いものの、基本的には対人戦に特化しており、冒険者としてダンジョンに潜って魔物と戦うのは不得手である。

 それに……彼らは普段から何らかの仕事に従事している。あまり手を煩わせたくはなかった。


「モニカさんは……いくらなんでも、時期尚早ですよね」


「そうだな。モニカの実力ではついてこれない。ちょうど良く人でも空いていることだし……ナギサとウルザに頼んでそこらのダンジョンに連れていってもらい、修行してもらうとしようか」


 そういえば……俺の影に潜んでいる悪魔の少女――アミュ・アガレスもいた。

 召喚獣である彼女が『四人』に含まれてしまうのかはわからないが……いざとなれば、あの娘をメンバーに入れるという手もある。


「実力は良くわかっていないが……まあ、力が落ちていても最高位の悪魔だ。それなりにできるはず……」


「ゼノン・バスカヴィル! お待ちなさい、ゼノン・バスカヴィル!」


「……あ?」


 エアリスと話しながら廊下を歩いていたところを、背後から大声で呼び止められた。

 振り返ると、廊下の端からブルンブルンとこちらに駆けてくる女性がいた。


「あの女、もしかして……?」


「あの方は、どうして……!」


 驚く俺の隣で、エアリスもまた青色の瞳を瞬かせる。

 どうやら、ブルンブルンと走ってくる彼女のことを知っているようだ。


「ハア、ハア……ま、待ち、待ちなさ……」


 そうこうしているうちにも、その女性がブルンブルン息を切らして、こちらに接近してきた。

 ちなみに……先ほどから何が「ブルンブルン」しているかというと、彼女の胸部にたわわに実った果実である。


 その女性は若草色のドレスに身を包んでいるのだが、驚くほどに胸が大きかった。

 平均以上のサイズがあるはずのエアリスやナギサよりも、さらに二回り以上は育っている。

 おかげで一歩足を踏み出すたび、上質な布に包まれた巨大な果実が上へ下へ右へ左へ、どこかに飛んでいってしまいそうなほどに躍動していた。


「おいおい、まさかここで会うことになるとはな……」


 俺はその女性を知っていた。

 ゼノン・バスカヴィルになってから何度か顔を合わせたことはあるが、実際に言葉を交わしたことのない女性である。


「スレイヤーズ王国第二王女……エレクトラ・ル・スレイヤーズ」


 先ほどまで謁見していた国王の実の娘。

 スレイヤーズ王国にいる三人の美姫の一人にして、『ダンブレ』における最大の巨乳の持ち主が、俺とエアリスめがけて走ってきていた。

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