第60話 50階層への道。そして……調教?
かくして、40階層から50階層までの攻略が始まった。
当然、その道中は安全なものではない。エンカウントするモンスターの強さも、トラップの意地悪さもこれまでよりも向上してきている。
だが……レベルが上がっているのはこちらも同じである。
特にシャクナとリューナ、この二人の成長ぶりには目を見張るものがあった。
「リューナ、援護して!」
「わかりました……ガードアップ! ラピッドフット!」
リューナから補助魔法を受けて、シャクナが素早くダンジョンの廊下を走り抜ける。
「ヤアッ!」
「ギャウッ!?」
シャクナが廊下の壁を蹴って跳躍し、虎の頭をした悪魔の頭部をシャムシールで斬り飛ばす。そして、着地と同時に雷魔法を放った。
「スタン・サンダー!」
「ガアアアアアアアアアアアッ!」
雷に射抜かれ、別の悪魔が悶絶する。
放った魔法は威力こそ低いものの、相手を麻痺状態にして一時的に動きを封じることができる魔法だった。
サイの頭部を持った悪魔が立ったまま硬直して、隙だらけの状態になる。
「今よ、殺りなさい!」
「了解! 任せておけよ!」
そして……今度は俺が素早く切り込む。
闇魔法を纏った刺突によってサイ頭の胸を貫き、一撃で相手を絶命させた。
「よし、これで敵は全滅。俺達の勝利だな」
戦闘が終了する。
危なげない戦いぶり。一撃たりともまともに攻撃を喰らうことなく、悪魔モンスターを討伐することができた。
「見事だ。また腕を上げたんじゃないか?」
シャクナはパワーよりもスピードを生かした
先ほどの戦いぶりはその特性を生かしたものであり、俺でさえも称賛せずにはいられない見事なものだった。
シャクナは伝説の勇者の子孫ということだが……ひょっとしたら、正統派主人公であるレオン・ブレイブ以上の
「ふふん、当然でしょ! 今にアンタにも追いついてやるんだから、首を洗って待っていなさいよね!」
憎まれ口をたたきながらも、シャクナの顔には喜色が浮かんでいる。
どうやら、手放しで褒められたことは普通に嬉しかったようだ。褐色肌でわかりづらいのだが、シャクナの顔は照れたように朱が差していた。
「リューナも良くやったな。適切なフォローだったぞ」
「ありがとうございます。バスカヴィル様」
シャクナとは違い、リューナは素直に称賛を受け入れる。
受け入れるのはいいのだが……わざわざ俺に近づいてきて、下から上目遣いで見上げてくるのはどういうことだろう?
「ん……」
「……何だよ、その目は。俺に何をしろってんだ」
「何って……わかりませんか?」
「…………」
リューナはこちらを見上げて、何かを期待するようにパチパチと瞬きをした。
その姿はまるでエサを待つ雛鳥。光を映さないはずの瞳に俺の顔がパッチリと反射している。
ああ、わかっているとも。
つまりは、そう言うことなのだろう?
「はあ……」
俺は渋面になって顔を背けながらも、リューナの要望通りに彼女の頭に手を乗せる。
わしゃわしゃと少し乱暴に頭を撫でてやると、リューナは心地良さそうに目を細めて相貌を緩めた。
こちらを信頼しきった顔。全てをゆだねるような柔和な表情は、たとえこの場で抱き寄せて口付けしたとしても受け入れてくれるだろう。
可愛い。とても可愛いのだが……そんなふうに素直に好意を示されると、こちらとしては照れるばかりだった。
「チッ……」
「ムウ……またイチャイチャして!」
照れ隠しに舌打ちをしながら視線を逸らすと、シャクナが腕を組んでこちらを睨んでいる。
リューナが子犬だとすれば、こちらは気まぐれな猫だろう。吊り上がった瞳で不満そうにこちらを睨んできた。
「お姉様、よろしければお姉様も一緒に褒めてもらいませんか?」
「なあっ!? 何を言っているのよ、リューナ!」
妹の予想外の攻撃に、シャクナが慌てたように両手を振る。
「ちょ……離しなさい! 私はそんな奴に撫でてもらっても嬉しくないわよ!?」
「でも……バスカヴィル様、とっても撫でるのがお上手なんですよ? これはクセになってしまいそうです。麻薬みたいに中毒性があります」
「クセにって……冗談でしょう?」
シャクナが疑わしげに尋ねる。
一方でリューナは本当に気持ち良さそうに俺の手の感触を味わっていた。頭に乗っていた手を掴んで頬に導き、ウットリと恍惚な表情になっている。
冗談ではなく気持ち良さそうな妹の顔に、シャクナが疑わしげにしながらも俺の方に寄ってきた。
「ムウ……」
「……何だよ、急に近寄ってきたりして」
「勘違いしないでよね! 私はリューナがおかしなことをされていないか確かめたいだけなんだから! あくまでも、リューナのためなんだからね!」
「…………」
どうやら、シャクナも頭を撫でろと言っているらしい。
俺は仕方がなしに反対の手をシャクナの頭に載せ……リューナと同系色の髪を撫でまわす。
「あんっ……!」
すると……何故かシャクナがピクピクと身体を震わせた。
まるで性感帯を愛撫されているように蕩けた顔になり、瞳を潤ませてパクパクと口を開閉させる。
「やっ……な、なにこれ……本当に気持ちいい……!」
「そうでしょう? バスカヴィル様の手は無骨なのに温かくて、とーても気持ちが良いんですよー」
「……どうして、お前が自慢するんだよ。というか……お前も
憮然とした気持ちで突っ込むと、シャクナが悔しそうに唇を噛む。
「し、仕方がないじゃない! というか、どうしてこんなに気持ちが良いのよ!? こんな風に撫でられたら誰だって…………ああっ!」
シャクナが言葉の途中で喘ぎ声を漏らす。
踊り子の衣装に包まれた身体をくねらせ、鼻にかかった声を漏らして悶絶する。
「くうっ……ふっ……はあん! まけない……負けないんだからあ……!」
「あふう……あっ……そこ気持ちいいです、バスカヴィル様……」
「本気でどうしたんだ……お前らは。マジで意味がわからんのだが」
わりと本気で戸惑いつつ、俺は顔の筋肉をひきつらせた。
明らかな異常事態に腕を引こうとするものの、シャクナもリューナも俺の腕をガッチリと掴んで離そうとしない。
俺は仕方がなしに姉妹の頭を、頬を撫でるはめになってしまう。
「ふああ……」
「んんっ……あふう……」
「…………なるほど、そういうことか。調教スキルが原因か」
俺は2人を身悶えさせている原因を理解した。
ゼノン・バスカヴィルは初期スキルとして【調教】スキルを身に着けている。
当然のようにゼノンの身体に憑依した俺もそのスキルを習得しているのだが……もちろん、これまで戦い抜いた結果として熟練度が90近くまで成長していた。
このスキルを鍛えた効力として、女性に対して与える愛撫のダメージが上昇しているのだろう。
「……マジか。うっかりしてたな」
「くううう……負け、負けない……まけ……くあああああああっ」
「ああ……バスカヴィル様……素敵ですう……」
艶やかな嬌声がダンジョンの通路にこだました。
その後、俺達は新たなモンスターが現れるまでピンク色の空気を展開し続けたることになる。
こんな俺達の姿を、ハディスが生温かい目で見つめていたのだが……俺はそんな視線に気がつかないふりをするのだった。
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