第59話 最後の朝食
「美味しい……」
「意外ですね、バスカヴィル様はお料理も得意だったんですか?」
料理を始めてしばらくして、シャクナとリューナが起きてきた。
俺は目覚めた二人のためにカレーをよそい、パンと一緒にテーブルに並べた。
ハディスはまだ眠っている。
神経を張り詰めさせていて、よほど疲れていたのだろう。まるで泥に沈んでいるように深い眠りについていた。
俺達は先に食事を摂ることにして、テーブルに並べたカレーを口に運んだ。
「本当に意外ね……貴方みたいなガサツそうな人が料理をできるだなんて」
シャクナの表情は悔しそうに歪んでいる。
よほど俺のことを認めるのが嫌なのだろう。それでもパクパクとカレーを口に運んでいるあたり、味はお気に召しているようだ。
「カレーで失敗する奴なんているわけないだろうが。本当は米があればよかったんだけどな。ナンだったらまだしも、黒パンじゃイマイチだ」
「でも、美味しいですよ? 固い黒パンもカレーに漬ければ食べやすいですし、昨日は夕飯を摂らずに寝てしまったので、すごく食が進みます」
「それなら結構。確かに……朝からカレーは重いかと思ったが、意外と食えるもんだな」
水を多めにしてスープカレーのようにしてみたのだが……上手くいったようだ。失敗せずに食えるものができて良かった。
「ムウ……どうやら、少し寝すぎたようですな」
食事を摂っているとハディスも起き上がってきた。
ちゃんと睡眠をとったおかげか、昨日よりもその表情には活気が満ちている。
「申し訳ありませぬ。臣下である私が、王女殿下よりも遅く起きるだなんて……」
「気にしないで良いわよ。昨晩も遅くまで見張りをしてくれてたんでしょう?」
「そうですよ。まだ疲れが残っているようでしたら、もう少し眠っていても構いませんよ?」
シャクナとリューナがハディスを労う。
自分達の護衛として、こんな砂漠の果てまで来てくれた老騎士に二人とも感謝しているのだろう。
「もったいない御言葉です。ところで、そちらの料理はリューナ様が作ったのですかな?」
「いいえ、これはバスカヴィル様が作ってくれたんですよ?」
「バスカヴィル殿が……驚きましたな。まさか料理をされるとは」
「お前もかよ……そんなに俺が料理できるのがおかしいのか?」
別にフランス料理のフルコースを作ったわけでじゃないのだ。
たかがカレー。キャンプの延長レベルの料理でここまで驚かれるなんて、コイツらは俺のことをどう思っていたのだろう?
ハディスも食卓に着き、一緒になってカレーに舌鼓を打った。
料理を半分以上たいらげた頃になって話題に上がってくるのは、やはり本日のダンジョン攻略についてである。
「今日中には50階層にたどり着くだろう。そこに『オシリスの錫杖』がある」
「ようやく目的達成ね。これで導師ルダナガの野望を打ち砕き、あの男の妖術に操られているお父様を救い出すことができる」
シャクナがテーブルの上で両手を握り合わせた。
その手は小刻みに震えている。緊張しているのか、あるいは武者震いでもしているのだろうか。
「50階層の守護者はどのような相手なのですかな?」
ハディスが尋ねてきた。
40階層のボスモンスターもそれなりに強かったが……それを上回る力を持った魔物が気になるようだ。
「50階層のボスモンスターは『堕天使』――ヴェリアル。漆黒の翼を持った人型の悪魔だ」
俺はゲーム知識を引き出して説明する。
「ヴェリアルは……そうだな、小細工無しで普通に強い魔物だな。これまでのボスのように魔眼や超音波といった特殊攻撃をするわけでもなく、普通に速くて普通にタフで、普通にパワフルな敵だ」
ヴェリアルとの小細工無し。正面からの真っ向勝負だった。
素早く強い敵のHPをひたすら削り、ゼロにまで追い込めば勝つことができるのだ。
相手が搦め手の小技を使わないがゆえにハッキリとした弱点は存在せず、ただただ純粋な地力だけが必要になる。
「次のボス戦では、これまでの戦いの集大成が試されることになるだろう。相手も小細工無し。こちらも小細工無し。ただ強い方が勝利する……それだけの戦いになる」
「そう……私達の力で通用するかしら?」
「必ず勝てる。そもそも……通用しないようであれば、俺は途中で引き返すように進言していたよ。足手まといを抱えて戦うつもりはないからな」
珍しく不安げなシャクナに、俺は断言する。
このパーティーであれば必ず勝てる。誰一人欠けることなく勝利して、目的の財宝を手にすることができるだろう。
「フンッ。貴方に褒められても気持ちが悪いだけだけど……安心はできたわ。貴方みたいな性格悪そうな人がそこまで言うのなら、大丈夫そうね」
「王女殿下は私が守る。それが騎士の役目である」
腕を組んで嫌味を言うシャクナ。ハディスもまた力強く断言する。
「……ん?」
テーブルの下で誰かが右手に触れてくる。
横に顔を向けると……隣の席に座っているリューナと目が合った。
「頑張りましょうね、バスカヴィル様」
「……当然だ。絶対に一人も欠けることなく勝つぞ」
まるで子犬が懐いてくるようにリューナが手を撫でてくる。
甘えて笑いかけてくる美貌の巫女に、俺は正体不明の照れ臭さに襲われて顔を背けるのであった。
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