第53話 血路


「な……その力は!?」


「これがバスカヴィル様の御力……!」


 オーバーリミッツを発動させた俺に、シャクナとリューナが驚きの声を上げる。


「ボケっとしてないで走るぞ! 階段まで足を止めるなよ!」


 叫びながら、右手に持った剣を振る。

 力強く振り下ろされた刃から漆黒の斬撃が放たれ、進行方向上にいる悪魔型のモンスターがまとめて消し飛ばされる。


 俺の攻撃に込められた属性は『闇』。悪魔に対して効力は薄いはずである。

 それにもかかわらず、斬撃に込められた闇は容赦なく敵を斬り裂いて蹂躙した。

 属性による不利をあっさりと覆す威力は、オーバーリミッツによるブーストがあってのことである。


「走れ!」


 結界が消えたことで押し寄せてきたモンスターを一刀のもとに斬り伏せる。

 先頭に立って悪魔の群れを切り払い、階段に向けて駆けていく。


「走って、リューナ!」


「はい、お姉様!」


 シャクナがリューナの手を引いてついてくる。その後ろからハディスが続く。


『オオオオオオオオオオオオオオッ!』


『ガアアアアアアアアアアアアアッ!』


『マッテ、マッテエエエエエエエッ!』


 醜悪が外見の悪魔が次々と襲いかかってくる。

 人狼の悪魔を斬り、等身大のハエを踏みつけ、カボチャ頭を殴り砕いてひたすらに進む。

 1秒でも足を止めてしまえば、途端に悪魔に囲まれて圧し潰されてしまうことだろう。休むことなく敵を倒し、文字通りに血路を切り拓いていく。

 塵に帰した悪魔の残骸を踏みながら進んでいくと……やがて下の階層に通じる階段が見えてきた。


「あそこだ! 飛び込め!」


 最初に階段にたどり着いたのは先頭で走っていた俺だった。しかし、すぐに階段に入ることなく先に仲間を中に入れることにする。


「王女殿下、お早く!」


「わかったわ!」


 ハディスに急かされ、シャクナがリューナの手を引いて階段に降りようとする。

 しかし……あと少しというところで、悪魔の1匹が後ろを走っていたリューナの髪をつかむ。


「きゃっ!?」


「リューナ!?」


 リューナが強制的に脚を止められたことで、繋がれていた手が離れてしまう。

 シャクナが慌てて妹を助けに戻ろうとするが……別のモンスターが間に入ってくる。


『グギャアアアアアアアアアアアアアッ!』


「王女殿下、危ない!」


 シャクナに向けて振り下ろされた首無し騎士の斬撃を、ハディスが背中で庇って受け止める。鎧のおかげで大きなダメージはなさそうだが、年配の神官騎士の口から苦悶の声が漏れた。


「グウッ……!」


「ハディス!」


「お前らは階段に行け! リューナは俺が助ける!」


 シャクナとハディスを階段の方に押しのけるようにして、俺が代わりに後ろに出た。

 悪魔に捕らえられてしまったリューナは髪を、手足を、腰や胸を悪魔に掴まれて身動きを封じられている。

 リューナを捕らえているのは豚の頭を持った悪魔。でっぷりと肥えた身体から6本の腕を生やしており、顔面には嬲るような醜悪な笑みを浮かべていた。


「バスカヴィル様……!」


「触るなよ……それは俺のだ!」


「ブビャハハハハハハハハハハハハッ!」


「黒狼斬!」


 剣から放たれた漆黒の斬撃がリューナを捕らえている悪魔の頭部を斬り飛ばし、一瞬で塵に還す。

 俺は解放されたリューナの腕を掴んで胸に抱きよせ、周囲に集まっていた悪魔を睨みつける。


「数が多いだけの雑魚が調子に乗るなよ! とりあえ……死んでいいぞ!」


 闇属性上級魔法――ブラックホール

 全てを飲み込む重力の闇が解き放たれ、その場にいた悪魔の大群を容赦なく呑み込んでいく。

『夜王』にクラスチェンジした俺にとって、闇魔法はお手の物。オーバーリミッツ中であれば上級魔法であっても無詠唱で使うことができる。


『ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』


『ピギュウウウウウウウウウウウウウウッ!?』


 十数体の悪魔をまとめて消し飛ばし、俺はリューナを抱えたまま階段に滑り込んだ。

 先に階段に入っていたシャクナとハディスが、転がり込んできた俺達の身体を受け止めてくれる。


「リューナ……良かった!」


「お姉様……!」


 シャクナとリューナが抱き合ってお互いの無事を確かめ合う。

 上の階に通じている階段が音もなく消えていく。役割を終えたことでモンスターハウスもろとも消滅していくのだ。

 次に39階層に行くことがあったとしても、そこにモンスターハウスは存在しないだろう。本来あるべきフロアに戻っているはず。


「まったく……肝が冷えたぞ。ここにきてモンスターハウスとは呪われていやがる」


 恨めしげな眼で上階からモンスターが覗き込んでくるが……彼らは階下に降りてくることなく消えていった。

 40階層はボスの部屋であったが、少し先にある扉をくぐらない限り戦闘は始まらない。


 これで大丈夫。もう安心だ。

 俺はオーバーリミッツを解除して、安堵しながらその場に座り込んだのであった。






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