第52話 活路
『ガアッ! ガアッ!』
『アケロ! クワセロッ!』
白い半球状のドームをモンスターが攻撃している。
リューナによって張られた結界は壊れる様子はないが、四方八方からモンスターに攻撃されるのは心臓に悪い光景だった。
シャクナは気味悪そうに結界の外にいるモンスターを眺めつつ、渡されたポーションの蓋を開ける。
「それで……これからどうするのよ? リューナの結界があるからしばらくは大丈夫だけど、時間が経ったらお終いよ?」
「私も魔力をかなり消耗してしまいました……もう治癒魔法も1回か2回しか使えません」
リューナも不安そうに肩を震わせている。
リューナのジョブは『巫女』。ヒーラーの中でも結界術に長けた魔法職である。
彼女が張った結界は『聖女』であるエアリスの結界すら凌駕しており、いくらモンスターに攻撃されても壊れることはないだろう。
だが……永続的に結界を維持することはできない。この結界も制限時間がくれば崩壊してしまう。
結界が壊れるまでに対処法を取らなければ、周囲に集まってきた無数のモンスターの餌食となってしまうだろう。
「問題ない。無策でこんなことをするほど俺も阿呆じゃないさ。それよりも……そっちは体力と魔力は残っているか?」
「……ポーションのおかげでどうにか。魔力もアンクレットを付けていたおかげで、そこまで減ってないわ」
シャクナが答える。
30階層のクリア報酬である『パステトの円環』を装備して魔法攻撃力を増加させていたおかげで、それほど魔力は減っていないようだ。
「私も問題ありませぬ。いかに老体と言えども、王女殿下らの足を引っ張るほどには老いておりませぬゆえ」
同じくポーションを飲みながら、ハディスが断言する。
言葉とは裏腹に随分と攻撃を浴びてダメージを受けているようだが……それを指摘しても、実直な神官騎士が決して弱音を吐くことはないだろう。
たとえやせ我慢であったとしても、最後まで耐えて見せるに違いない。
「ならば結構。これからの作戦だが……結界が解けると同時に下の階層につながる階段へ直進する。後も横も気にするな。迷わず突っ込むぞ」
「突っ込むって……魔物はどうするのよ!? これだけの数の魔物、どうやっても無視なんてできないわよ!?」
時間が経過したことで、モンスターハウスにいる全ての魔物が結界の周囲に集まっていた。無数の魔物の壁となっており、針を通す隙間すらもなかった。
「問題ないと言ったはずだ……活路は俺が作る。お前らは力の限り走りぬくことだけを考えろ」
「でも……」
「お姉さま、ここはバスカヴィル様の言う通りにしましょう」
なおも言い募ろうとするシャクナに、リューナが言い含めるようにして笑いかける。
「私は幾度も絶望の未来を夢にしてきましたけど……ここで死ぬ姿は一度として視ていません。バスカヴィル様を信じましょう」
「……わかったわよ」
シャクナは渋々といったふうに頷いて、ビシリと指を突き付けてきた。
「その代わり、リューナが怪我をしたら許さないんだからね! ちゃんと責任は取ってもらうわよ!」
「何だよ、責任って。嫁に貰えばいいのか?」
「なっ……そんなわけないでしょっ!? リューナをお嫁にするなんてご褒美じゃない!」
「私はそれで構いません? 遅かれ早かれ、私はバスカヴィル様のものになるのですから」
「リューナも馬鹿を言わないの! 貴女を隣国にお嫁になんてやらないんだからねっ!」
「はいはい、そんなことよりも……」
キャンキャンと小型犬のようにわめくシャクナを無視して、俺はリューナにだけ話しかける。
「【占術】のスキルは修得しているよな? それで階段の位置を探って欲しいんだが」
【占術】は巫女の初期スキルである。もちろん、覚えているだろう。
このスキルは占いによって様々な情報を得ることができる。フロアにある宝箱の個数やモンスターの数、階段がある方角なども知ることができた。
「もちろん、占いは得意技ですけど……おそらく、階段の位置を占えば私の魔力は尽きてしまいます。もう回復できなくなってしまいますけど、よろしいですか?」
「よろしくはないが……仕方がないな。他に方法はない」
階段まで突っ切ろうにも、そもそも階段がどこにあるのかわからなければやりようがない。残り少ない治癒魔法を捨ててでも、絶対に占術は必要である。
「わかりました。かしこみかしこみ……」
リューナが両手を合わせて祈りの文言をつぶやいた。
目を閉じてブツブツとつぶやいていたリューナだったが、左の方向を振り返って瞳を開く。
「どうやら、階段はあちらにあるようです。距離はわかりませんけど……」
「十分だ。それじゃあ……結界が解け次第、一気に駆け抜けるぞ」
「はい……結界の持続時間はあと1分ほどです。もうじき、消えます」
「リューナ……」
シャクナが緊張した面持ちで妹の手を握る。リューナも頷きを返し、姉の手を握り返した。
「俺が先頭で血路を開く。シャクナはリューナの手を引いて続いてくれ」
「私が殿……ということですな?」
ハディスが俺の考えを先読みする。
実直な騎士も緊張しているらしく、いつも以上に表情が硬くなっていた。
「そうなるな……やってくれるか?」
「当然。私が最後尾でなければ許せぬと思っておりました」
「ならば良し……それじゃあ、
結界の効果時間は残り10秒ほど。
白い結界がチカチカと明滅している。効果が切れる合図だった。
5……4……3……頭の中でカウントをして、残り1秒になったところで俺は叫んだ。
「オーバーリミッツ――『冥将獄衣』!」
俺にとって最大の切り札である大技を発動させる。
地獄の蓋が開いたような邪悪なオーラが身体を包み込み、圧倒的な全能感で肉体が満たされた。
――――――――――
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