番外編 ナギサの仕事(後編)
「サイクロプス! どうしてアンデッドが魔物に変身するアルか!?」
「サイクロプスというのか、あの一つ目鬼は」
リンファの叫びを耳に入れつつ、ナギサは目の前の怪物を観察する。
眼前に立ちふさがっているのは身長2メートルほどで筋骨隆々とした身体を持つ、単眼一本角のモンスター。
リンファの言葉からそれが「サイクロプス」と呼ばれる存在であることを知るが……ナギサの頭上に大きなクエスチョンマークが浮かぶ。
「人間が……それも死体が魔物に転じるなどということがあるのか? 寡聞にして聞いたことがないが?」
「あるわけないヨー! アンデッドになることはあるアルあるアルけどネー!?」
「『アル』が多いぞ……おっと!」
「ゴアアアアアアアアアアアアアッ!」
サイクロプスがナギサめがけて飛び掛かってきた。
大きな図体で圧し潰そうとしているのか、両腕を広げてタックルを仕掛けてくる。
「荒い攻撃だ。どうやら、人としての知性は存在しないようだ」
ナギサは地を滑るような足取りでタックルを躱して、すれ違いざまに斬撃を浴びせた。
夜闇に走る2つの閃光。サイクロプスの両腕が肘のあたりで切断され、赤黒い血を流しながら地面に落ちた。
「ゴアアアアアアアアアアアアアッ!?」
「図体ばかり大きくなって、強さはさほど変わってはいないらしい。相変わらず食い甲斐のない雑魚…………む?」
「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」
サイクロプスが殴りつけてきた。斬り落としたはずの左腕で。
後方に跳躍して避けたナギサの目の前。まるでナギサの攻撃がなかったように元通りに再生した拳が地面を叩く。
「オー! 斬った腕が生えてきたアルヨー! まるでトカゲの尻尾が再生したみたい。これは驚天動地の大奇術ネー!」
「解説、ご苦労。そうか……巨体のみならず再生能力まであるのか。これは驚いたな」
「ガアッ! ガアッ! ガアッ! ガアアアアアアアアアアアアアッ!」
サイクロプスが連続して打撃を放ってきた。
ナギサは路地裏でバックステップを繰り返し、次々と繰り出される拳を避けていく。途中で隙を見て反撃するも、斬りつけた傷口は瞬く間に修復されてしまう。
「なるほど……これは手強い。大した力のない格下とはいえ、再生能力のある敵がこれほど面倒だとは思わなかった。また1つ勉強になったな」
「グガアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「とはいえ……この程度の敵に
サイクロプスが繰り返し殴りつけてくるが……ナギサは剣を鞘に収め、そこから横薙ぎに抜刀した。
「青海一刀流――絶海!」
「ガッ……!?」
真一文字に放たれた青い斬撃がサイクロプスの両腕を、その向こうにある胴体もろとも断ち斬った。
完全に切断された傷口は誰の目から見ても致命傷。しかし、またしても常識離れした再生能力で傷口がふさがれようとしている。
「青海一刀流――天魔波旬!」
だが、サイクロプスが再生しきるよりも先にナギサが追撃を仕掛けた。
刀が無数の斬撃を刻みつる。唐竹、袈裟、逆袈裟、斬上げ、逆斬上げ、右薙ぎ、左薙ぎ、逆風……目にも止まらぬ斬撃が幾度も幾度もサイクロプスの身体に浴びせられる。
常人の目には、小さな嵐が巻き起こっているようにしか見えないだろう。青い斬撃と赤い鮮血が混じり合い、夜の路地裏に紫の色彩を描いていく。
「これにて終幕。思ったよりも悪くはなかった」
「…………」
もはやサイクロプスから返答はない。
数え切れない斬撃を浴びせられたことでブロック状にバラバラにされ、もはやどうやっても再生することは不可能だろう。
無数の破片となったサイクロプスの残骸が地面に落ちる。路地裏が屠殺場に変わったように、不気味な赤いシミが広がった。
勝利を収めたナギサのもとにリンファが駆け寄る。
興奮した様子のリンファは飛びつくように、返り血まみれのナギサに抱き着いた。
「オー! すごいアル、やっつけたアルヨー!」
「ああ、そちらも怪我はないようだな」
「姉さんのおかげネー! 助けてくれたお礼に姉さんが死んだら綺麗なアンデッドにしてあげるヨー!」
「……遠慮しておこう」
抱き着いてくる小さなネクロマンサーに辟易しながら……ナギサはサイクロプスの残骸を眺めて、「主人に報告することが増えた」と思案するのであった。
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