第24話 遭難
「さて……これからどうしたものかな」
活躍した2人を労い、俺は周囲に転がっている死骸を見回した。
20人以上もいた砂賊であったが、5分とかからず壊滅させてしまった。横たわる死骸の中には俺達をここまで連れてきた案内人の姿もある。
「……いかんな。帰りのことを考えていなかった。ここはどこだ?」
俺達は案内人の男に嵌められて、本来、向かうはずだった王都とは違う場所に連れてこられていた。ここがどこか、王都がどっちかも不明である。
ゲームだったらマップ画面を開いて場所を確認するだけなのだが……現実ではそうもいかない。
砂漠の真ん中で遭難するという非常に恐ろしい状況になっていた。
「王都……いや、どこでもいいから人里を見つけないと枯れちまうぞ。俺には竜車を操ることもできないし……」
一縷の望みをかけてウルザとレヴィエナを見るが、2人ともフルフルと首を振った。
これが馬車であったならばどうにかなったかもしれないが、竜車を操作するためには『魔物使い』のジョブが必要になるのだ。当然、俺達の誰も持ってはいない。
空からは相も変わらず、灼熱の太陽が降りそそいでいる。
改めて意識すると途端に全身から汗が流れてきて、このままでは砂漠の真ん中で遭難してしまうことになるだろう。
「ご主人様……急に熱くなってきましたの」
「……さっきまでは暴れてたから気づかなかったんだろうな。とりあえず、竜車の中に入って対策を練ろう。ここにいたらミイラになっちまう」
少し離れた場所で、俺達をここまで連れてきた砂竜がのんびりと寝こけている。
『魔物使い』の案内人がいなくなって竜車は動かせないが、車内に避難して日差しから逃れることくらいはできるだろう。
そう思って竜車に向かおうとするが……砂賊の死体の中にそろそろと地面を這って、俺達から離れようとしている人間がいるのに気がついた。
うつ伏せに倒れた状態で匍匐前進をしているのは、『赤槍団』の団長を名乗っていた毛むくじゃらの大男である。
「よお、急いで何処に行くんだよ」
「ヒイッ!?」
俺は闇魔法の弾丸を撃つ。放たれた弾丸は砂漠を這っていた大男の顔の横に着弾した。
「ウルザに蹴り飛ばされて生きているとはタフな奴だ。だが……助かったな。ここがどこかもわからずに困っていたところだ」
「お、俺に手を出してタダで済むと思うなよ!? 赤槍団にはあと50人の部下がいるんだ! 俺の仲間が必ずお前に報復するぞ!?」
「あ? 面白いことほざくじゃないか。おかしくって腹がよじれそうだ」
「っ……!」
俺は目元を覆っていたサングラスを外し、地面に臥している大男を睥睨する。
ご存知の通り、俺の三白眼はモンスターでさえも震え上がらせるもの。今しがたぶちのめされたばかりの大男は、まるで人喰い虎にでも出くわしたかのように恐怖で顔を引きつらせた。
「ヒイイイイイッ!? な、何でも話します! 話しますから、命だけは勘弁してください! 食べないでくださいっ!」
「喰うわけねえだろ! 人を何だと思っていやがる!?」
「ヒヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
睨みを利かせてやると、大男が砂漠に響き渡るような悲鳴を上げた。図体ばかりデカいくせに気の小さいことである。
「まったく……ここはどこだ。人里はどっちの方角にある? さっさと答えないと……」
「こ、ここは王都から南東に100キロの場所です!」
「100キロって……ラクダもなしに歩くのは厳しい距離だよな?」
この世界にくる以前も含めて、砂漠を旅した経験などない。
100キロの旅路がどれほどのものかはわからないが……砂漠を歩くとなれば、遭難して死んでしまう可能性だってあるはずだ。
「どうにかして王都まで行きたいが……お前は竜車を操作できるのか?」
「……で、できません」
「そうか……じゃあ、生かしておく理由は無くなったな」
「ヒイイイイイイイイイイイイッ!? な、仲間が! 仲間に『魔物使い』がいます! そいつにやらせればどうにかなりますから!?」
剣を抜こうとする俺に、大男が涙目になって訴えてくる。
「その仲間はどこにいるんだよ。嘘だったら、生まれてきたことを後悔する目に遭わせるぞ?」
「あ、アジトにいます……案内しますからどうか……」
「…………」
ウルザとレヴィエナに目配せをすると、2人とも「うんうん」と頷いている。
どうやら、仲間から反対意見はなさそうだ。この大男にアジトまで案内してもらうとしよう。
「逃げようとしたら膝の皿を抜いてやるからな。くれぐれも馬鹿なマネを企むなよ」
俺はマジックバッグから取り出した縄で大男を拘束して、立ち上がらせる。
ここから歩いてすぐの場所にあるというアジトまで先導させた。
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