第15話 生き残った血筋


「生存している勇者の子孫だけど、この学校にいるレオン・ブレイブ君を除いて3人ほど見つかった」


 ポラリスがお茶菓子の饅頭を摘まんで口の中に放り込む。

 しっかり咀嚼して飲み込み、たっぷりと勿体ぶってから確信の情報を口にする。


「1人目はそのブレイブ君の妹さん。名前はモニカ・ブレイブ。年齢は15歳。ウラヌス領にある村に住んでいて、両親の仕事を手伝っているらしい。ちなみに、仕事の内容は薬草の栽培で、母親は再婚していて父親と血のつながりはない。勇者の子孫であるところの実父はすでに亡くなっている。森で魔物に襲われたらしいが……怪しいところだな」


「…………」


 俺は眉をひそめながらポラリスの報告を耳に入れる。

 レオンの家族構成についてはすでに知っていた情報である。妹、ついでに母親はゲームにも登場したのだから。

 ただし、彼女達が登場したのはレオンが主人公の『1』ではなく、悪役寝取り主人公が登場する『2』のほう。レオンを憎むゼノンによって監禁され、手酷い調教を受ける立ち位置である。血のつながらない父親も母娘が拉致される際に殺されていた。

 恋人をゼノンによって奪われたレオンは傷心のままに帰郷するのだが、そこにあったのは焼け落ちた自分の家。妹と母親は行方不明になっており、焼け焦げた父親の亡骸だけが崩れ落ちた家の残骸に埋もれていた。

 いなくなった家族を必死に捜すレオンはやがて監禁場所の屋敷にたどり着くのだが……そこにいた母娘は複数の男性に囲まれ、全身に白濁液を浴びて媚びた顔で笑っていた。

 2人の腹はぷっくりと膨らんでおり、そこにかつて仲睦まじく生活していた家族の面影はない。

 絶望したレオンは母娘を犯していた男達を惨殺し、血の涙を流しながらかつて愛した家族へ剣を振り上げて……などという鬱ネタのために登場するのがレオンの家族である。


「そうか……父親が勇者の血を引いていたとなれば、妹にも資格があるのは当然か」


「もっとも、妹さんは戦いとは無縁の生活を送っているみたいだから、戦力になるとは思えないけどね。それで2人目だけど……『槍王レスファルト』は知っているかな?」


「……名前だけなら」


 槍王レスファルト。

 それはゲームにも登場したお助けキャラだった。

 主人公であるレオンが危機に陥ったときにたびたび現れ、圧倒的な力で敵を倒してレオンの命を助けるハードボイルドな中年親父。

 ゲームではずっと正体不明、出自の謎が残されたままエンディングを迎えたため、『実はレオンの父親なんじゃないか?』『コイツが次回作のラスボスになるのでは?』などとファンの間で物議を生じさせたキャラクターである。


「相当な達人であると噂は聞いたことがあるが……知らなかったな。奴も勇者の子孫だったとはな」


「いやいや、話は最後まで聞きなよ。槍王は勇者の子孫じゃない。この男の妻が勇者の血を引いているようだ」


「妻……結婚しているのか? あの槍王が?」


 あの住所不定の中年親父に、護るべき家庭があるとは思っても見なかった。生活感がまるでなくて、絶対に独身貴族だと思っていたのに。


「その妻も随分と前に亡くなっているらしい。だけど、娘が1人いて行方がしれない。もしも生きているのであればその娘も勇者の子孫と言うことになるね」


「勇者の子孫で『槍王』の娘か。生きているのであれば頼もしいんだが……」


「仲間が探しているけど……期待はしないで欲しいね。どうやら『槍王』も娘を捜しているらしいけど、10年以上も見つかっていないようだから」


「フン……あのおっさんにそんな事情があったとはな。人に歴史ありってやつか」


 不自然なくらいあちこちに登場する『槍王』であったが、どうやら娘を捜して放浪していたらしい。意味もなくダンジョンやら町やらうろついてたわけではなかったようである。


「そして……最後の1人。これまた手の出しづらい場所にいるのだけど」


「……言ってみろよ。聞いてやる」


「…………」


 もったいぶって沈黙していたポラリスであったが、やがて首を横に振りながら口を開く。


「勇者の子孫。最後の1人がいるのは隣国──マーフェルン王国の王宮だよ」


「はあ?」


「現・国王の実の娘。王女シャクナ・マーフェルンこそが勇者の子孫だ」


「…………」


 マーフェルン王国──その国名を聞いて、俺は言葉を失う。

 俺の脳裏に浮かんだのは先日、粛清した貴族──『人喰い伯』のベロンガ・ジャクソルトである。

 あの男もまたマーフェルン王国に籍を置いている貴族であったが……まさかここでもその国名を聞こうとは思わなかった。


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