第44話 森林の戦い
王都の東にあるフォーレル森林は植物系モンスターが多数生息しているダンジョンだった。厳密に言うとモンスターの生息地であって洞窟のような『ダンジョン』とは異なっているのだが、ゲームの中ではダンジョンとして扱われている。
「やあああああああ、ですの!」
「キシャアアアアアアアアッ!」
襲いかかってくる樹木の形をしたモンスターへ、ウルザが鬼棍棒を叩きつける。
強烈な打撃を受けたモンスター……『マンイートツリー』という怪物が、幹の身体を中ほどでへし折られて真っ二つになった。
「相変わらずのパワーだな。あの小さな身体のどこにあんな力があるんだか」
「キシャアアアアアアアアッ!」
「ご主人様! そっちに行きましたの!」
「任せろ!」
反対側から襲ってきたマンイートツリーへと斬撃を叩きつける。同時に、事前に覚えておいたスキル――『魔法剣』を発動させる。
『ギャアアアアアアアアアアッ!?』
斬られたマンイートツリーが黒い炎に包まれる。剣に込められた魔法『ヘルフレア』の効果である。
『魔法剣』は魔法と剣術、それぞれの熟練度を40以上まで上げることによる修得できるスキルだった。武器攻撃に修得している魔法を付与することができるため、物理・魔法の二重でダメージを与えることができる非常に強力なスキルである。
「魔力の消費が激しいから連発はできないが……威力は2倍以上。【魔法剣士】の本領発揮だよな!」
『ギ、イイイッ……』
炎と闇の2属性魔法のダメージを受けて、マンイートツリーが力なく崩れ落ちる。そのままドロップアイテムを残して消滅した。
しかし――魔物の絶叫を聞きつけたのか、森の奥から1メートル以上もある甲虫型のモンスターが現れる。それも1匹や2匹ではない。10匹以上もだ。
「ゲームだったら、一度に大量のモンスターは出てこないんだけどな……エアリス!」
「わかりました! ホーリーフィールド!」
エアリスが得意の結界魔法を発動させる。
不可視の壁が発生して、こちらに這い寄ってくる昆虫の群れの進路をふさぐ。
この魔法は一定時間、モンスターの接近を防ぐものである。弱いモンスターにしか効果がないのだが、今のような状況にはうってつけである。
「天より降りそそぐ悪意の雨。邪悪なる魔神の涙よ……」
結界によって敵が足止めされているのを確認して、俺は魔法の詠唱に入る。
強力な魔法の発動には長時間の詠唱が必要だ。その間は全くの無防備になってしまうものの、結界によって守られている状態であれば問題ない。
「ウルザ、下がれ!」
「はいですの!」
詠唱が終わると同時に即座に命じる。別のマンイートツリーを叩き潰していたウルザが、命令に従って後退した。
「闇魔法──ブラッドレイン!」
結界の効果時間が切れてこちらに進んで来ようとする甲虫の群れであったが、その頭上から真っ赤な雨が降ってくる。
血の色をした雨の正体は強烈な酸。甲虫の固い装甲が剥がれ落ち、剥き出しになった身体が焼けただれる。甲虫はジタバタと雨の中で激しく藻掻いていたが、やがてそろって動かなくなってしまう。
ドロップアイテムを残して消え去る甲虫に、俺は肩を落として溜息をついた。
「どうやら終わったようだな。一安心だ」
「ゼノン様、どうぞ」
エアリスが手持ちのマナ・ポーションを差し出してきた。
遠慮なく受け取って喉に流し込むと、ソーダのような爽快感のある味わいと共に消耗した魔力が回復する。
「決して強い魔物というわけじゃないが……これだけ数が多いと、さすがに参るな」
フォーレル森林に入ってからすでに10数回ほど戦闘になっていた。
出現するモンスターは決して強敵というわけではなかったが、巨大な昆虫などが出てきたりすると、おぞましさに背筋がざわついてしまう。
それに舗装されていない森林を歩いて行く疲労も、なかなか馬鹿にできないものだった。
幸いなことに回復アイテムは山ほど持っている。いざとなれば魔物避けのアイテムを使いテントで休むことだって出来るため、まだ深刻な事態には至っていない。
「これで半分ってところだな。想定よりも敵が多くて、時間がかかってしまったが」
「このペースで進めば、夕暮れまでには帰れそうですね」
「そうだな……ウルザもケガはないな?」
「問題ありませんの。まだまだぶっ殺せますの!」
ウルザもまた元気よく恐ろしいことを言ってのける。
やはり3人パーティーとなると効率が良い。俺1人だけだったなら、こうもうまく進めなかったはずだ。
特にヒーラーがいると安心感が違う。心置きなく敵と戦うことができる。
「……やはり仲間は大事だな。仲間を奪っちまってレオンには申し訳ないことをした」
「レオン……? ブレイブさんがどうかしましたか?」
「いや、こっちの話だ。先を急ごう」
「はい?」
不思議そうに首を傾げるエアリスにヒラヒラと手を振って、俺は森のさらに奥へと踏み込んだ。
後ろについてくる2人の気配を感じながら、注意深く周囲を見回しながら進んで行く。
それから何度か戦闘があったものの、目立った傷などを負うことなく森林の最深部へと到着した。
「……もうすぐボスのねぐらだ。油断するなよ」
今回の目的であるアイテムを入手するためには、森の奥にいるボスモンスターを撃破しなければならない。
このメンバーで強敵と戦うのはギガント・ミスリル以来である。連携はだいぶ様になってきているが、まだまだ油断は禁物だ。
俺はゲームの記憶を頼りにしてその場所へと足を踏み入れ……予想外の光景を目にして立ち止まった。
「……あ?」
辿り着いた森の最奥には、地面に倒れる巨大なカマキリの姿があった。
どす黒い不気味な色のカマキリは全身を切り刻まれており、緑色の体液を流しながらピクピクと虫の息になって痙攣している。
そして、力なく横たわるボスモンスターの傍らには、右手に刀を手に持った1人の少女の姿があった。
「おや……君達は……?」
俺達の存在に気がつき、黒髪ポニーテールの少女が振り返ってくる。
たった1人でボスモンスターを撃破したその人物は、『ダンブレ』のメインヒロインの1人──ナギサ・セイカイであった。
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