悪逆覇道のブレイブソウル
レオナールD
第1章 悪役転生
プロローグ
あなたの好きなゲームは何ですか?
誰かにそんな質問をされたら、俺は迷うことなく『ダンジョン・ブレイブソウル』というゲームの名前を挙げるだろう。
これはいわゆる剣と魔法の世界を舞台にしたファンタジーRPGを主軸として、そこに学園における複数ヒロインとの恋愛要素を組み合わせた作品である。
主人公の名前はレオン・ブレイブ。かつて魔王を封印した勇者の子孫であり、物語の舞台となっているスレイヤーズ王国にある『王立剣魔学園』に通うことになる新入生だ。
学園に入学した主人公は様々なヒロインと出会い、パーティーを組んで迷宮に潜って冒険をしていく。
いくつもの敵と戦い、財宝やマジックアイテムを見つけ出し、時には人間の悪意から引き起こされた事件に立ち向かっていく。
そうしてヒロイン達と絆を深めていった主人公は、やがて勇者の子孫として世界を救うために魔王と戦うことになるのだ。
多彩なイラストと躍動感のあるバトルシステムによって多くのプレイヤーを引き付けたこのゲームは、元々、成人指定のPCゲームだった。当然ながら、ヒロインとの濃厚なラブシーンも盛り込まれていたりする。
後に発売される全年齢版ではカットされていたそのシーンもまた、多くの男性を『ダンブレ』の世界に引き込む要素の1つだった。
その魅力はゲームだけにとどまることはなく、コミカライズにグッズ展開、アニメ化までしたほどである。
さて……こんな風に『ダンブレ』の魅力を語ってきた俺であったが、反対に嫌いなゲームを聞かれれば、やはり迷うことなくこう答えるだろう。
『ダンジョン・ブレイブソウル2』──これはとんでもないクソゲーだと。
名前の通り、前作の『ダンブレ』の世界観を引き継いだこの『2』であったが、これは発売からわずか1週間でゲーム業界を震撼させる騒動を巻き起こした。
これはレオンが魔王を封印した後の世界が舞台になっているのだが、主人公はレオン・ブレイブではない。それまで名前しか登場していなかったレオンのクラスメイト……ゼノン・バスカヴィルという男が主役だったのである。
このゼノンという男を端的に表すのならば……『クズの外道』、『女誑しの人でなし』とでも言うしかない。
魔王を倒して平穏な日常を取り戻したレオンの前に現れたゼノン・バスカヴィル。彼はレオンの男友達として近づいてきて、交流を深めていく。
それまでヒロイン達に囲まれて男の友人がいなかったレオンは新しくできた悪友を好意的に受け止め、徐々に心を開いていった。
しかし、レオンとゼノンが親しくなるほどに、それまで絆を深めていたはずのヒロイン達の様子がおかしくなっていくのだ。レオンのことを必要以上に避けるようになり、学園の昼休みや休日に姿を消すようになってしまった。
ここまで説明すれば、察しのいい者は気づいていることだろう。
そう……レオンの愛するヒロインはゼノン・バスカヴィルによって寝取られていたのだ。
レオンに近づいたゼノンは、あらゆる手段を使ってヒロインを篭絡していった。
暴力、脅迫、誘拐、薬物、闇魔法による催眠と洗脳。スレイヤーズ王国における上級貴族であり、裏社会を牛耳るギャングのボスであったバスカヴィル家の力の前には、いかに魔王を討伐した勇者の仲間であっても逆らうことはできなかった。時間を重ねるごとに身体はもちろん、心までも堕とされていったのである。
ゼノンの魔の手に晒されたのは、メインヒロインである3人の女性に留まらない。学園の女教師や、世話になった先輩、可愛がっていた後輩。挙句の果てに、王都から離れた辺境の村に暮らしている、レオンの母親や妹までもがゼノンの餌食となってしまった。
メインヒロインもサブヒロインも、関わった全ての女性を奪われたレオン・ブレイブ。
魔王を倒した英雄だったはずの青年は、最終的にありもしない罪を被せられて名誉まで失い、犯罪者として投獄されることになってしまう。
最後にはヒロイン達がゼノンによって抱かれて、媚びたあえぎ声を漏らしている場面を見せつけられ、絶望に血の涙を流すのである。
前作の心を震わせる愛と戦いの物語から一転して、陰湿で醜悪なNTRゲームとなった『ダンブレ』の新作には当然ながら非難と批判が殺到した。
制作会社の電話は連日のようにトラウマを植え付けられたプレイヤーの抗議によって鳴り続けることになり、あまりに相次ぐクレームに制作スタッフによる謝罪会見まで開かれたほどである。
どうして夢のあるファンタジーを製作していたはずのスタッフが、こんな悪い意味で挑戦的な問題作を生み出してしまったのか。
その原因には、ゲームの製作期間中にプロデューサーが奥さんを若い男に寝取られてしまったり、シナリオライターが結婚詐欺に遭って貯金を全て巻き上げられてしまったり……様々な人間の悪意に満ちた裏事情があったりする。
『女性』という生き物に絶望して、自暴自棄になってしまったスタッフ陣には同情する。しかし、まっとうな感覚を持つプレイヤーとしてトラウマを植え付けられたこちらとしては、とても許すつもりにはなれない。
騒動の果てに制作会社が経営破綻を起こしたのも、当然の報いだと思っている。
そんな栄光と破滅の黒歴史を歩むことになった『ダンブレ』であったが、意外なことに騒動の後も根強いファンが残っていたりする。
世の中には他人の幸福を妬み、不幸を喜ぶ人間。悪党に対して憧れを抱いている人間も少数派ながらも存在しているのだ。そんな人間達にとって、愛も名誉も全てを手に入れたレオン・ブレイブという男はいけ好かないリア充でしかなかったらしい。
レオンがヒロインを奪われていく姿に興奮して、悪の華道を堂々と闊歩するゼノンに憧れを抱くプレイヤーもかなりの数がいたようである。
前作の大ファンである俺には欠片も理解できないことだったが、『ダンブレ2』こそが神ゲーであると口にする者までいるくらいだ。全くもって嘆かわしいことだった。
さて……こんなふうに好きなゲームと嫌いなゲームについて長々と論じてきたわけだが、そろそろ本題に入りたいと思う。
突然、話が変わってしまって非常に申し訳ない限りだが、どうやら俺は死んでしまったようである。
それはゲームの世界ではなく現実でのこと。当たり前であるが教会での蘇生も復活魔法も使うことはできない。
いや、死んでしまったなら話をすることなんて出来るわけがないだろう。お前はいったい誰だよ。
そうやって疑問に思う方もいらっしゃるだろうから、いい加減に自己紹介させていただきたいと思う。
俺の名前はゼノン。ゼノン・バスカヴィル。
現代日本で命を落とした末にゲームの世界に転生してしまった悪役主人公である。
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書籍1巻が発売いたしました!
どうぞ本作をよろしくお願いします!
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