小噺「簪の行方」

小噺「簪の行方」

(第四章第10話「鏡写しの少女たち」)


「これが一つになった石花――、美しい。よきかなよきかな」

「あなた様にお渡しができてよかったです。本当に一度売るのを辞めるなどと失礼なことをいたしまして――」


 簪屋のでっぷりした店主はその大きな体をへこへこさせた。

 その目の前には、ごちゃごちゃとした装飾でうるさいくらいに身を飾った、いかにも金持ちという様子のあやかしがいる。石花の宿る簪を買う予定だったあやかしだ。

 鏡写しのような二人の少女ヨシノとカグノが一つに戻した石を貰い受けた店主は、すぐにその石を簪にしてこのあやかしのもとへと向かった。


「そう謝る必要はない。結果、こうして簪を手に入れることができたのだから」

「それならばよかったです」

「これほど美しい簪であれば、アオヒメにも相応しい。――最近アオヒメはいつも向日葵の簪を刺しているのだ。だれからの贈り物かは知らないが、あれもなかなかどうしてアオヒメに似合っているから悔しくてね。この簪であれば、張り合えるだろう」


 あやかしはそう微笑んで、夜長の市のたまゆら堂へと向かっていった。

 その後、たまゆら堂のアオヒメの頭には向日葵の簪と、美しい群青色をした石の簪が輝いたとか。


(了)

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