小噺「お小遣い」

小噺「お小遣い」

(第四章第3話「石花」)


 トウカがまだあやかしの世に来たばかりのこと。街に出掛けるようになったトウカに、ウツギが小さな巾着を渡した。


「なにこれ?」

「金だ。街に行くなら必要かもしれないだろう。少しくらい持っておけ」

「でもこれ、ウツギのお金でしょう。家に泊めてもらって、お金までもらうわけにはいかないよ」

「だからって、入用になったら困るだろう」


 お金まで工面してもらうわけにはいかないと固辞するトウカと、なにかあったら困ると主張するお人好しなウツギ。二人の間で巾着の押し付け合いが始まった。その攻防はなかなか終わらず、そばにいた黒犬のポチが暇そうに欠伸をする。


「――分かった、じゃあ賃金として渡すっていうのはどうだ」

「賃金?」


 ウツギがため息をつきながら提案した。


「トウカにはうちの炊事や掃除を手伝ってもらう。その対価として俺が金を渡す。それならどうだ」

「まあ、それなら――」

「じゃあそういうことで」


 二人とも攻防に疲れていたため、妥協案を受け入れることにした。

 だがトウカは思う。


「家事を手伝うのって、家に置いてもらっている身としては当たり前のことなんじゃないのかな。結局私だけ得をしているような――。お人好しめ」


(了)

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