小噺「お仕事いろいろ」
【お仕事いろいろ】
(第四章 第6話「椿をまとう」)
屋台でおでんを食べながら、「そういえば」とトウカは思った。
「あやかしの世にもお金ってあるんだよね? アサヒは鍵師のお仕事があるとして、ウツギとかシラバミさんって働いているの?」
トウカは彼らが働いているのを見たことがなかった。
でもウツギは広い家に住んでいるし、シラバミだって時折高そうなお菓子を買ってきてくれている。お金は持っているはずなのだ。
アサヒは大根を一口食べてから、
「バミさんは、あやかしを貸す仕事をしてるんだよ」
「あやかしを――貸す?」
「そう。トウカは見たことない? バミさんが使役している蛇。子どもの姿に化けられるんだけど」
「あ、私に金平糖入りの木箱を届けてくれた子のことかな」
それなら今朝会ったばかりだった。
「バミさんは何匹も蛇を従えていて、その蛇を貸しているんだ。大掃除するから手伝ってとか、話し相手がほしいんだとか、そういうあやかしに蛇を貸す代わりに、お金をもらってる。だから、まあ、本人はべつに仕事してないよ」
「ああ、なるほど――。じゃあウツギは?」
トウカはウツギを見た。アサヒも「ウツギの仕事は知らないな」という。
「俺は――、まあ、一応働いているぞ」
「えー、なにそれ」
「教えてよウツギ」
「秘密だ」
ウツギは困ったようにそっぽを向いた。
*****
後日、シラバミが笑ってトウカに教えてくれた。
「ウツギくんは絵師をしていて、彼の繊細な絵はお金持ちに気に入られているんだ。花鳥風月の絵なんて人気だよ。まあ、本人は恥ずかしいからって隠しているけどね」
「絵師なんだ。見てみたいな」
「じゃあ今度、ウツギくんを贔屓にしている金持ちのあやかしに会わせてあげようか。見せてくれると思うよ」
こうしてウツギの知らないところで、トウカとシラバミの間に約束が交わされた。
(了)
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