小噺「山菜って――」
小噺「山菜って――」
(第三章 第1話「鳥居階段」)
「山菜、こんなところに生えているものだったんだね」
トウカは周囲を見渡した。
鳥居階段の周りには木々が生い茂っている。毎日トウカが食べているおひたしの山菜は、ここで取れたものなのだとウツギが教えてくれた。
「でも――、だれが山菜を採ってきているの?」
「俺だ」
ウツギはなんてことない様子でそう言った。
「――え」
「俺が毎朝散歩がてらここにきて、山菜を摘んでいる」
「毎朝?」
「ああ」
「こんな階段を、毎日上り下りしているの――?」
「トウカが食べられるものが他になさそうなんだから、仕方ないだろう。まあ、散歩みたいなものだから」
トウカは頭がくらくらした。
毎日毎日、こんなところにまで他人の食事のために山菜を摘みにくるなんて。
――どれだけお人好しなんだろう。
トウカは呆れかえった。
お人好しだとは思っていたが、度を越している。
「ウツギ――、これからは私が山菜を採りにくるから。多分、これからここの散策に通うようになるし、そのついでに。だからウツギがそこまでしなくていいよ」
ウツギは不思議そうな顔をした。
「ウツギは――、ちょっと人が良すぎる気がする――」
そう言っても、やはりウツギは不思議そうにしていた。
そうして、トウカの鳥居階段散策に山菜採りという作業が加わったのだった。
(了)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます