小噺「山菜って――」

小噺「山菜って――」

(第三章 第1話「鳥居階段」)


「山菜、こんなところに生えているものだったんだね」


 トウカは周囲を見渡した。

 鳥居階段の周りには木々が生い茂っている。毎日トウカが食べているおひたしの山菜は、ここで取れたものなのだとウツギが教えてくれた。


「でも――、だれが山菜を採ってきているの?」

「俺だ」


 ウツギはなんてことない様子でそう言った。


「――え」

「俺が毎朝散歩がてらここにきて、山菜を摘んでいる」

「毎朝?」

「ああ」

「こんな階段を、毎日上り下りしているの――?」

「トウカが食べられるものが他になさそうなんだから、仕方ないだろう。まあ、散歩みたいなものだから」


 トウカは頭がくらくらした。

 毎日毎日、こんなところにまで他人の食事のために山菜を摘みにくるなんて。


 ――どれだけお人好しなんだろう。


 トウカは呆れかえった。

 お人好しだとは思っていたが、度を越している。


「ウツギ――、これからは私が山菜を採りにくるから。多分、これからここの散策に通うようになるし、そのついでに。だからウツギがそこまでしなくていいよ」


 ウツギは不思議そうな顔をした。


「ウツギは――、ちょっと人が良すぎる気がする――」


 そう言っても、やはりウツギは不思議そうにしていた。

 そうして、トウカの鳥居階段散策に山菜採りという作業が加わったのだった。


(了)

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