第5話 集落「血塗れた鱗」

フェリトの〈癒しの豪雨〉で傷を癒した、ディールと動物達は近くにある集落、ディールの生まれた地「血濡れた鱗」と言う場所に移動する事になった。そこには代々様々な動物達が共存し、生活をしていると言う。

 フェリトとエケルは行っても良いのかと確認するとディールは、

「なぁに、俺は副族長なんだ!兄貴に1人や2人、話通してやるよ」

 と自慢げに話をしていた。エケルは楽しそうに、フェリトは不安を覚えながらもついて行くことにした。

 エケルと動物達はすぐに打ち解け合い、色んな動物達の背中に乗ってみたり、抱かれていたりと、子供の様に扱われていた。フェリトはローブのフードを被り、誰とも話すこと無くディール達についていっていた。ディールはフェリトの姿を見ては、フェリトに近づき、

「フェリトよォ〜もっと気ぃ抜いても大丈夫だぜ?ここの動物達ももう、あんたらを襲う事もしねぇし、それにほら見ろ。エケルの坊ちゃんはもう馴染んでやがるぜ?」

 そう言いエケル達を指さした。その時エケルは動物達の中でも歳が低い…と言ってと10代に価するが、そのもの達と無邪気に遊びながら進行している姿があった。

『…僕は静かな所が落ち着く。』

「まぁ得意不得意はあるから無理にとは言わねぇがな。交流も大事だぜ?」

 ディールはそう言うと列の先頭の方に行き、動物達のリーダーと思われる者たちと話をする様子が見えた。

(僕は…)

 フェリトは自分が馴染む…そんな考えは初めから持ってないが、それでもディールに言われると今のままでいいのか…と余計に暗い顔をしていた為か、動物達はフェリトに話しかけられずにいた。そんなフェリトを見ていたディールはやれやれと首を振った。

 そうこうしているうちに、集落「血濡れた鱗」の姿が見え始めた。集落の周りは砦の様になっており、簡単には侵入する事は困難とフェリトは思った…が、フェリトの嗅覚には嫌な感じがしていた。

「あそこが俺たちの集落だ。あの砦は俺たちで作ったんだぜ?」

 と自慢げにディールは話した。フェリトは〈可視化〉を発動させた。すると集落の中は、傷だらけのリザードマンや動物達が1つの家に身を寄せ合ってる姿が見えた。

『ディール急いだ方がいい。中は絶望的に見えてる』

「何?そんなわけ…いや何ないならそれに越したことはねぇ!全員急いで戻るぞ!走りやがれぇ!」

 そうディールの掛け声で一行は集落へと向かった。

 走り、砦の入口にたどり着いたフェリト達は、皆嫌な匂いを感じていた。ディールが

「ディールだ!扉を開けろ!」

 そういうが中からは反応が無い。

「クソ!この扉は中からじゃないと開かないようにしてある。どうすりゃァいい!」

『…任せて。』

「どうするつもりだ?」

 そういうとフェリトはディールを抱き抱えた。

「お、おい!!こんな時にぃ…うぉ!」

 そして跳び、中に入った。

『…外から無理なら中に入ればいいだけ。』

「いや普通この高さ跳べねぇから…」

 そう言いつつディールは扉を開けた。扉は小さく音を鳴らしながら開いた。エケルと動物達は急いで中に入り

「フェリトなんか…ここ嫌な感じ…」

 エケルは〈同調〉が発動しているのか少し苦しそうな顔をしていた。それを見てフェリトは自分の能力を見返した。すると、〈狼の加護〉と言う能力を見つけた。効果は〈精神支配から身を守る〉だった。効果があるのか分からないが、エケルに〈狼の加護〉を発動させた。すると、

「あれ?嫌な感じが少し薄れた…?フェリト…だよね?ありがとう」

『…効いて良かった。中を確認しないと…』

「こんな焦げ臭い匂いなんてしねぇぞ!それに鉄の匂い…」

『鉄じゃない。血だよ。』

「クソッ!全員、中を確認しろ!回復魔法使える奴は中央に集まれ!それ以外の奴は怪我人を中央に集めろ!」

『エケルも怪我人集めてきて…出来る?』

「大丈夫!行けるよ!」

「フェリト、エケルすまねぇな。今はお前らの力を借りさせて貰うぜ!」

 そう言うと、皆一斉に行動を始めた。虎の様な動物がエケルに近づき、

「エケルさん!私の背中に乗って!」

「良いの?ありがとう!」

 そう言いエケルは短い手足をバタつかせて虎の背に股がった。そしてしっかり掴まり、集落の中へと姿を消した。

 フェリトはそれを横目で見ながら中央に早足で向かっていた。木製とはいえ、それなりの強度を持つであろう砦を火を使ったのではなく、力でこじ開け侵入した形跡が〈可視化〉には映っていた。面倒な事になったとフェリトは思っていた。

 そうこう考えて居るうちに、中央にたどり着いた。中央には、既に数体の動物達やリザードマンが、血に塗れた状態で集められていた。フェリトが近づくと皆警戒した様に唸り声や牙を剥き出していた。フェリトは特別気にすること無く右手を伸ばし、

「〈癒しの豪雨〉」

 小さく呟くと集落の中央付近に緑色の雨が降り注いだ。リザードマン達は雨に警戒したが身体の傷が癒えていくのを体感し、その技の主を確認するなり、警戒を高めた。フェリトはディール達に出会った時の反応と同じ感覚を覚え、少しの不快感を感じた。

「お前ら!そいつは仲間だ。そいつに警戒するくらいなら集落内の警戒を上げろ!説明は後でする!」

「うっす!」「おう!」「はいよ!」「頼むぜ!」

 様々な反応があちこちから上がった。そしてフェリトの〈癒しの豪雨〉でいえた傷で集落内の負傷者を探しに行った。

「フェリトすまねぇな…アイツらも悪いやつじゃねぇんだ」

『別に…仕方ないよ…』

 フェリトはそう言ったが尻尾の鱗は逆立っていた。ディールは逆立った尻尾を見て、バチ悪そうな顔をした。

「父ちゃん!ねぇ!しっかりしてよ!」

 張り詰めた空気の中、熊の子供がぐったりした熊の元で叫んでいたのがフェリトとディールの耳に入った。2人は急いで駆け寄り、

「シオン!?ウルススに何があった!!」

「父ちゃんは僕を庇って傷を…父ちゃんを助けて!」

「血が流れ過ぎてる…クソ!今から薬草鮭を取ってくる時間もねぇ!」

『…。』

「フェリトこの恩は必ず返す!ウルススを助けられねぇか…?」

『…恩、ねぇ。いいよ。』

 この時フェリトのコアは黒くぼやっと輝いていたのを観て、ディールは少し恐怖を感じた。だがウルススの為に対価を払う覚悟を決め、

「すまねぇ!頼む!」

 フェリトは〈無限袋〉から赤い液体が入った中くらいの瓶を取り出した。

「そ、そりゃなんだ…血…じゃねぇよな…」

『人間の作った〈ポーション〉と言うやつらしい。大抵の生物には効果を発揮するらしい…』

「そんな得体の知れない物を使うのかァ!!」

『…助からなかったら僕を殺せばいい。僕からすると所詮、他人。それを助けるんだ。実験されたところで文句言えないよね?』

「ぐぅぅ…チッ…」

 そう言うとフェリトは親熊と思われる生物の深い傷口に〈ポーション〉を浴びせた。

「ぅぅぅぅ…ぐは!!」

 そう言いウルススは吐血した。それを観ていたディールは、

「ウルスス!!大丈夫か?」

「グルル…な、何とかな…」

 〈ポーション〉を浴びた部分の傷口は少しずつ閉じ、出血も治まっていた。

「ディール副族長、そいつは危険ですぜ…敵じゃないのはわかるが…はぁ…味方でもねぇですぜ…」

『命の恩人に随分な態度だな。』

 フェリトの殺意を感じ、ディールとウルススは身が縮む感覚を覚えたその時、

「フェリト〜傷だらけの動物たち集めたから手伝ってぇ〜」

『…わかった。』

 虎の様な生物に股がって現れたエケルはフェリトに声をかけ、2人は中央に戻って行った。

 ウルススの傷は癒え、立てるほどには回復していた。

「父ちゃん!元気になって良かった!」

「シオン、守れて良かった…母ちゃんは?」

 シオンは首を横に振った。

「グルル…許さねぇ…」

「ウルスス、何があったか説明してくれ。」

「その前にディール副族長、さっきのアイツは何考えてるかわからねぇですぜ?それにさっきの殺意、ありゃガチのヤツですぜ…」

「だな…だが敵ではないと俺は信じてぇ。とりあえず負傷者を確認してから皆の前で説明頼む!」

「わかりやしたぜ!」

 そう言いウルススはシオンを肩に乗せ、ディールと中央に掛けて行った。

 中央には集落の半分以上の生物達が浅い深い関わらず怪我をしていた。その集まった所にフェリトは、

『〈癒しの豪雨〉』

 そうつぶやくとさっきよりも激しい緑色の雨が生物達に降り注いだ。そして生物達は皆フェリトを観るなり、様々な…特に警戒心を露わにし、フェリトは苛立ちを覚えていた。その隣で、

「フェリト〜!凄いよ!こんな膨大な能力使ってもピンピンしてるなんて!」

『…まだ大丈夫…だよ。』

「フェリト今度ゆっくり出来たらミーを特訓してね♪」

『…僕で良かったら…ね』

 エケルとやり取りをしているうちに少し気持ちが落ち着いたフェリトだった。そこに、ディールとシオンを肩に乗せたウルススが到着した。

「皆何とか大丈夫だな!フェリトすまねぇな、助かったぜ!エケルもありがとうな!」

『…』

「なんにもだよ〜♪」

「俺達がいない間に何があったか教えてくれ!」


 そう言い生物達はディール達がいない間にあった出来事を口々に発した。


     第5章    [完]

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