第4話 忘却の森

 フェリトとエケルは研究所の玄関部分に居た。

「ミーワクワクする♪」

『…そうだね。僕は怖さもあるけどね…』

「それもまた楽しみだよ!」

『そうだね…行こうか、外の世界へ』

 2人は初めて外の世界へと1歩を踏み出した。初めて見た世界は、日差しが微かに差し込む薄暗い森だった。樹木の色は深緑や紫の様な色をしていた。時折鳥や獣の声が聞こえるが、周りには生物らしきものは居なかった。

『これが…森…』

「こんなに森って暗いの…かな?」

『僕も分からない。』

 初めての世界が薄暗い始まりで、不安を持ったが進まなければ研究所の中と変わらない…そう思った。フェリトがふと研究所の方を観た。

「フェリトどうしたの?」

『ここには成仏しきれていない死骸がある…燃やそうと思う…』

「それは…。残して欲しい…なぁ…って。」

『…なぜ?』

「…こんなミーでも生まれた場所が無くなるのは寂しい…と言うか…なんか…。」

 そう言うとエケルは黙り込んでしまった。その表情はどこか寂しそうであった。

『…わかったよ。ここは残しておく。』

 フェリトがそう言うと、エケルは満面の笑みで

「ありがとうフェリトぉ〜」

 と足に抱きついてきた。フェリトはエケルを持ち上げ、肩に乗せた。

「フェリト背が高くて景色が変わる!ねぇ!このままで居させて…」

 まるで甘える子供の様な顔でフェリトを見つめた。フェリトは頷き、エケルを肩車したまま真っ直ぐと歩き始めた。

 森の中に入ると、日差しはほとんどなく薄暗い景色が続いていた。エケルは怖いのかフェリトの頭をがっちりと掴んでいた。

『…怖い?』

「えへへ…ちょっとね…」

『僕いるから大丈夫』

「ありがとう♪」

 少しエケルの震えは治まったように感じた。フェリトはエケルを肩車しながら森の中を数時間歩いていた。

 フェリトは遠くから微かに嫌な匂いを感じていた。エケルを肩から降ろそうとすると、エケルはぐっと捕まり、

「降ろさないで!!ミー…凄く怖い。」

(エケルの嗅覚は僕ほど鋭くないはず…)

『…何が、怖い?』

「わからない、けど身体がズキズキする…痛くて…怖くて…」

『わかった。その代わり抱っこでいい?』

「…うん。」

 エケルは怯えてる様子でフェリトの胸に抱っこされていた。フェリトはこっそり〈能力認識〉を発動させステータスを確認した。が、ステータスには何も異常はなかった。念の為と思い、能力を確認するとそこに〈同調〉と言う新しい能力が載っていた。

 この時コアが薄暗い青色の光を発してた。

『エケル…これ以上進むと、もっと苦しいかも…良いの?』

「…うん。ミーはフェリトとなら何処にでも行ける!!行きたい!!」

『…無理はしないで。』

 そう言い、エケルが苦しむ姿を目にしながら、フェリトは匂いの元、エケルの苦しむ原因であろう場所に向かっていった。

 そうしてフェリトと少し苦しむエケルは数km進んだ所にある水辺を目にした。そこには傷や血でまみれた様々な体の大きさの動物達が、身を寄せあって休んでいた。フェリトはこの血の匂いを遠くから嗅ぎ取っていた。エケルはこの動物達の痛みに同調し、先程よりも苦しんでいた。フェリトはエケルを抱きながら、身を隠し様子を観ていた。

 動物達は血を流し、槍や剣等が刺さっている動物も居た。槍などをお互いに抜き、叫び声を上げ、水に浸かり、傷を癒している…そんな様子だった。その中央にはリザードマンが居た。リザードマンも身体の至る所が傷だらけで流血している所も多々見られた。が、水に浸かると少しずつだが傷が癒えていた。

(癒しの水辺…そんな所か…)

 フェリトはそう思いみていた。その時だった。

「おい。そこで隠れてねぇで姿見せたらどうだ?」

 中央のリザードマンがこちらを鋭い目つきでフェリトとエケルが居る茂みを見据えていた。その言葉で周りの動物は一斉に身構えた。

(…バレてるか。)

「フェリト…どうしよう…」

 エケルは不安そうにフェリトを見つめてきた。フェリトは小声で、

『行くしかない…』

 そう言うとフェリトはエケルを抱きながら、茂みの外に姿を出した。姿を見たリザードマンと動物達は目を見開いた。

「お前ら…何もんだ?いや、そのチビ助はバジリスクの子か?だがでけぇの。お前は魔物でもねぇ。ここに来た理由次第では殺す。」

 その言葉聴き、コアはほんのり赤色の光を発していた。

『君達に負ける気はしないんだけどね…』

「フェリト!?なんでそんな事…うぅ。」

「言ってくれるじゃねぇか」

『事実を述べたまで。死に急ぐなと…忠告だ。』

 周りの動物達も傷の痛みを忘れて皆、今にでも襲いかかって来そうな勢いだった。その時だった。

「フェリト…痛い…熱い…苦しい…。」

 その言葉を聞いてフェリトは我に返った。こんな近くに怒りで我を忘れかけ、傷だらけの動物達が居れば、エケルの〈同調〉は激しく効果が表れることを。その瞬間コアは真っ赤に輝いていた。コアの光を観たリザードマン達は一層身構えた。

『エケルごめん。少し楽にするから…』

 フェリトはそう言うと…

『〈癒しの豪雨〉』

 その言葉と同時に、水辺の周りに滝のように、緑の雨が、豪雨が降り注いだ。動物達は悲鳴を上げた。が、リザードマンが声を発した。

「落ち着け!!これは攻撃ではない!身体をよく見ろ!」

 その一声で動物達は自分達の身体を見た。傷だらけだった身体は緑の雨を浴びた所から、少しずつ傷が癒えていた。そして興奮していた感情も皆少しずつ落ち着きを取り戻し、歓喜の声を上げていた。

 その頃エケルは少しずつ苦しみから解放されていた。

「はぁ…はぁ…フェリトありがと…」

『エケル…ごめん…』

「謝らないで…ミーも強くなる…から…フェリトにこんな風に迷惑掛けないから…」

 フェリトはエケルを抱き締めた。コアは輝きを失っていた。それらを観ていたリザードマンは、

「おい、でけぇの。挑発しちまってすまねぇな。俺はディールっちぅ名前だ。」

『僕も挑発仕返してた…ごめん…僕はフェリト。』

「ミーはエケルって言います!」

「フェリトとエケルな。なぁフェリト、確認していいか?」

『なに?』

「お前さん、動物でも魔物でもねぇよな?匂いも気配も初めて感じんだよなぁ。」

『…僕は、人間に創られた生物。僕に同種は…居ない。』

「やっぱりそうか…これ以上は深堀しねぇから安心してくれ」

『…そうしてくれると助かる…。』

「エケルは同調の持ち主か?俺の集落にも1人いてな。戦後は近づかないように気を使ってたもんだよ」

 ガハハと笑いならがら、話したディールにエケルは、

「どうして皆こんなに傷だらけなの?」

「そうだな…〈あいつら〉もしばらくは攻撃準備するだろうし、こっちも準備しながら話してやるよ」


 そうしてフェリトとエケルは、リザードマン「ディール」と出会い、新たな物語へと進むのである。


    第4章      [完]

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