第2話 出会い

 朝日が射し込む研究室。かつて白衣の者達が使っていた机の上に座っているフェリトの姿があった。フェリトは悩んでいた。

 この研究所の中の感じる生命の気配をどうするべきかと…

 フェリトは自分が簡単に死ぬ肉体では無いことは理解していた。他の生物に興味もあった。悩んだのはほんの少しの時間だった。

 机から降り、研究室のロックを解除し初めて、研究室以外の景色を目にした。薄暗く天井や床には埃や、蜘蛛の巣がある、綺麗とは言い難い景色だった。

 フェリトは生命の気配の元を確認したら此処を去ろうと考えていた。少しずつ、気配に近づいていくフェリト。

 そして、扉1枚を挟んでフェリトと、その気配は存在していた。

 フェリトは扉を乱暴に開け、中を見た。そこには実験の失敗作であろう生物達の死骸の山が無造作にあった。

『…僕ももしかしたらここに居たのかな。』

 ポツリと独り言を発した。そして周りを、生命の気配を探した。それは部屋の隅の死骸の山の頂上にポツンと居た。いや、正しくはあった。

 生物の気配の正体は人間の頭程の大きさの卵だった。卵は薄暗い部屋の中でもほんのりと紫の光を出していた。

『これ…は?…卵かな?』

 フェリトは卵に近づいた。卵は波模様をしていた。卵には数本の管がつけられていた。その先を見ると、機械があり、いくつかの数字が映し出されていた。

『僕には…分からないな。』

 機械を見た後、フェリトは卵の状態を見ようと顔を近づけ…興味のあまり卵との距離が数センチになっていたのに気づかなかった。フェリトが興味を持ったのは、卵に数本のひびが入っており、もうすぐ産まれる…そう動物の魂が予感したからだ。コアも黒っぽい黄色に発光していた。

 卵は紫から少し桃色に変化した。色の変化を見て少し冷静さを取り戻し、卵との距離が近かった事を自覚した。

『…照れた。のかな?ごめんね…』

 そう謝った時、卵の中から

《ピキピキ…ピキピキ…コツコツ》

 と音と共に、ひびが増え、深く刻まれている。

『…。』

 身体のコアは相変わらず黒っぽい黄色に発光しているが、フェリト自身どうしていいのか戸惑っていた。フェリトが戸惑っている間にも、卵は更に音を立て、三本の指がある腕を卵から出し、もう一本の腕も殻から突き出てきた。次に三本の指がある足が1本、また1本と卵の殻から突き破っていた…よく見ると太く短い尻尾もピクピクと動いていた。

 そして、丸みを帯びた角が2本ある頭が遂に姿を見せた。卵から産まれた生物とフェリトはすぐに目が合った。そして…

「ゥギャァァー!!!アウアウッゥ…」

『泣かれた…』

 フェリトの顔は狼の様な顔で耳はとんがり、鼻も長く、鋭い目つきであった。

 少しショックを受けたが、目線を合わすため腰を曲げ、まだ卵の生物の身体に付いている殻を取ろうと手を伸ばす。が…

《ビクッ》「ゥギャァァ!!!」

『ご、ごめん…と、取るだけだから…』

「ウゥ…」

 フェリトは少しずつ腕を伸ばし、少しずつ鋭い爪で傷つけないように優しく、卵の殻を取っていた。この時既にコアの輝きはなく、普段のドス黒い塊となっていた。

 全ての殻を取り除くと卵の生物の身体の全容が明らかになった。

 紫色の体色をしており、手足は2本ずつ、指は3本、根元が太く先が細い丸みのある尻尾、2本の丸みを帯びた角…そして爬虫類の様な皮膚をしており、二足歩行にも、四足歩行ともなる赤子の様な姿だった。

「ま、マァマァ?」

『僕に性別は無いよ。それに君の親でもないよ。』

「ミーのマァマァ?」

 その目はどこか寂しそうで今にも泣きそうな目をしていた。だからフェリトは…

『…ハァ。そうだね、僕が親…かな。』

 なぜこんな事を言ったのかフェリトもわかっていなかった。だけどこの赤子を見捨てる事は…1人にする事で殺す事になる。それがフェリトには出来なかった…のかもしれない。

「マァマァ!!」

 赤子はさっきまでの表情が嘘だったようににっこりと笑い、フェリトに四足歩行で少しずつ近ずいて来た。フェリトは手を伸ばし、赤子を抱いた。

『名前…付けないとね…』

「ミーの名前はマァマァが付けて♪」

『名前付けてあげるから、僕の事はフェリトって呼んでもらって良いかな…?』

「ふぇりと???ふぇりとマァマァー!!」

『はぁ…』

 頭を悩ませながらも名前を考えていた。なにせ、フェリトもこの世界に生まれて数時間しかまだ生きていないのだから。そして数分頭を使い、自信なさげに…

『エケル…なんてどう…かな…』

「エケル?ミーはエケル!ふぇりとありがとー」

『…ど、どういたしまして…』

 喜んでもらえたようでフェリトは安心した。エケルは短い腕でフェリトに抱きついていた。が、

「ふぇりとぉ?口の辺り濡れてるよ?」

『ご、ごめん。怖いよね…』

「ミーは怖くないよれふぇりとはミーのマァマァだからミーもマァマァの事真似する!」

『生き物を殺したんだよ…多分いい事じゃない…と思う…』

「そーなの?ならミーはやらない!」

『僕も必要ない殺しはしたくない…僕とエケルとの約束…にしよう。』

「やくそく?何それ?」

『守り事みたいな事だよ。僕も知らないことがあるから2人で色んなことしていこう…ね』

「うん!」

『じゃ此処を出よう。』


 こうしてフェリトとエケルの2人の物語が新たに始まった。

 

   第2章    [完]

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