汚れきった世界で生まれたこと

オオカミ

第1話 誕生

 真っ暗な森の中にひっそりと1つの研究所があった。

その研究所の大部屋の中央にはカプセルがあり、そのカプセルの中には、人間とも獣とも呼べない生物が創られていた。数名の白衣の者達は日々その生物の研究に時間を費やしていた。

 それは沢山の動物や人間の皮膚や臓器、魂…生き物のありとあらゆる物がこの生物の創造に使われていた。

 人間のような容姿ではあるが、狼の様な鋭い爪、鋭い嗅覚、トカゲのような尻尾、ライオンの様な鋭い牙…

その身体の中央には何かを埋め込む事が出来る穴がすっぽりと空いていた。

 実験は最終段階に達していた。その穴にドス黒いコアを埋め込み、コアに感情、魂…等の精神となる物を注入する事でこの生物は完成を遂げるのだ。

 そして身体にドス黒いコアを埋め込まれ、スポイトの様な機械がコアに精神の注入を始めた。

 生物の入ったカプセルが揺れ、生物の身体が痙攣した様な動きをしていた。徐々に、機械音が収まり、静寂が実験室を包み込んでいた。

 スポイトの様な機械が元の位置に戻り、白衣の者達がカプセルの中の生物を見守っていると、生物が、ゆっくりと目を開いた。

「「おぉ…」」

 白衣の者達は感嘆の声を小さく上げた。

「バイタル、精神状態、肉体状態…の異常は無いようだな…」

「な、名前を付けなければな。」

「フェリト…なんてどうだ?」

「「良いと思います!!」」

この瞬間、生物「フェリト」に名前が与えられた瞬間である。

 フェリトは白衣の者達の会話を耳にしていた。数多の種族の人間の魂を取り込んでいる為、会話を理解出来ていた。

『フェリト…僕の…名前……。』

 フェリトの初めての声は、透き通っていて性別不明の様な…でも忘れる事の出来そうにない声をしていた。

「発語も問題無さそうだな。」

「フェリト、初めましてだな。我々は君を創り出した人間だ!」

『…創る?…人間?』

「そうだ。我々は人間と呼ばれる生物だ。フェリト、君に種族は無い。世界で初めての生物だ!」

『僕に…仲間は…居ない…?』

「安心しろ、我々が仲間だ。」

『仲間?創造主では無いの…?』

「仲間であり創造主でもある!」

『…目的は?』

「私達は世界に裁きを下すべく生物実験をしている。フェリト、君はその記念すべき最初の作品だ!この世の天使や悪魔、魔物共を人間の支配下に…いや、我々の支配下にする為に!」

『支配下…ねぇ…』

 その時、身体のドス黒いコアが黒い光を放ち出し…

フェリトは笑っていた。

「「「ッ!?」」」「笑ってる…」

『これが…興奮…かな…w』

 研究室に警告音が鳴り響く。

「フェリトッ!?」

「け、血圧が上昇しています!精神状態も興奮状態です!」

 フェリトのコアは禍々しい光を放ち、少しずつ、だが確実に光は強くなっているのを白衣の者達は感じていた。

『我々の支配下?違う…僕の支配下にする。人間も天使と悪魔も!』

 この時のフェリトの声は白衣の者達の命の灯火を凍らせるのには十分すぎる威力を持っていた。

 そしてフェリトは右手を握りカプセルを…

《バリンッ!!》

 割った。そしてフェリトは生まれて初めて他生物と同じ世界に立った。

「ひ、ひぃ…」「どうしてこうなったんだ!」

「逃げろ!!」「助けて…」

 白衣の者達の悲鳴があちこちから発せられた。

 フェリトは笑いながら近くにいたリーダーの首を掴み、顔を見つめた。

「わ、私達は君を作ってあげたんだぞ!!私を離せ!!さもなくば君の命をt…ゥッ……ガハッ」

 フェリトは表情を無くした顔で首を掴んでいる手の力を入れ…そして…

《ゴキッ…》

 リーダーの首の骨を握力だけで折った。

 それを見ていた、白衣の者達は絶望し逃げ狂った。

 が、それをフェリトは…逃げる事をフェリトは許さなかった。研究室の鍵を魔法で閉じ、逃げられない研究室にした。

 研究室には人間の叫び、泣き声、怒号、機械の警告音が鳴り響いていた。

 フェリトのコアは真っ黒な光を放ち、悪魔の様な…でも悪魔の方が優しいのではないかと思わせる凍てついた笑顔で、1人、また1人と白衣の者達の命の灯火を消していた。

 そして夜が開ける頃、研究所の窓から日差しが入った時には、研究室の中の人間は無惨な姿に変わり果て、研究室は血に染っていた。その中に人間だったものを貪り喰らっている生物が、初めて日差しを見て…

『…?これが朝日…?綺麗だね。』

 警告音の中透き通った綺麗な声が発せられた。



      第1章    [完]     

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