第2話 勝手知ったる人の家
4月も初め。
新学期がスタートするってのに、なんという1日の始まりだろう。
少しヒリヒリする頬を摩りながら。俺はあえなく洗面所を後にしていた。
まぁ、ノックもせずに突然開けた自分が悪いのは素直に認めないと。しかもあられもない姿を見られたんなら当然の行動かもしれない。
それに、大層な音と瞬間的な衝撃には驚いたけど……そこまで痛みは感じてなかった。流石にフルスイングだったら、目が覚めるどころか夢の中に逆戻りだったに違いない。
むしろ手加減をしてくれた般若さんに感謝するべきか?
とはいえ、おかげでバッチリ目は覚めた。顔を洗うのは後回しでリビングに行くか。
気を付けないとなぁ。
なんてしみじみ思いながら、俺は見慣れた廊下を歩き進める。
自分の家じゃないのに見慣れてる。他の人からしてみれば何言ってんだこいつ状態かもしれないけど、別に嘘を付いてる訳じゃない。
訪れた回数でいけば、自分の家……いや元家か? それと学校。それに次ぐ程馴染みがある。それもかなり昔から。
だからこそ、ここに居る自分に違和感を感じないのも仕方ない事なのかもしれない。だからと言って、あんな経験は2度としたくないけどね?
そんなこんなで廊下を右に曲がると、真正面に見えるのがリビング。近付くにつれて次第に漂う美味しそうな匂いに、すでに誰かが居るのは分かる。
思わず鳴り響いたお腹の音を隠すように手で押さえながら、もう一方をドアノブに伸ばすと、俺はゆっくりとそのドアを開けた。
一歩足を踏み入れると、そこは広々としたリビングが広がっている。テレビにソファ、真ん中に置かれた大きなテーブル。奥にはキッチンと……やはり見慣れた光景。
ただ、今までのお客様気分は昨日で終わり。今日からは謙虚に努めなければいけない。それはさっき思い出したばかりの現実だった。
「おはようございます」
「おー、おはよう」
そんな決意を胸に発した朝の挨拶に、まず始めに反応してくれたのは椅子に腰掛けコーヒーを啜る男性。
落ち着いた顔に少し蓄えた顎髭が何ともダンディーで、見た目はチョイ悪オヤジと言った所だろうか。
ただ、この誰もが羨みそうな人物……残念ながら俺の父親ではない。
「あっ、おはよう! 今ご飯持ってくね?」
続いてキッチンから顔を覗かせる明るい声の持ち主。
ここからでも分かる肌の艶。明るい雰囲気。授業参観で来たらざわつくレベルの顔とその立ち姿。
ただ、この誰もが羨みそうな人物……残念ながら俺の母親ではない。
「おはようっす! 湯真兄さん!」
次に声を上げたのは、テーブルですでに朝ご飯を食べていた短髪の少年。
そのキラキラした瞳はいつ見てもやる気を沸き上がらせてくれる。どっかの…………あっ、いや。
ただ、この誰もが可愛がりそうな少年。兄さんと呼んでくれるのはありがたいけど……残念ながら俺の弟ではない。
「おはよう。あっ、
そして最後に反応した、少し大人びた雰囲気を見せる小娘。
うん、真逆だね! 隣の少年とは! この年で、もはや母親の様な面影を見せるなんて……この落ち着きは、きちんとしているレベルの度を越えているぞ?
ただ、この誰もが溜息を付きたくなるような小娘……残念ながら俺の妹だ。
何を言っているか分からない? まぁ仕方ないよ、俺もまだ信じられずにいるんだ。
ただ、そこまで気になってないのも事実。
「分かってるよ。すいません、持っていきます」
とりあえず、この状況を単的に説明すると……ここは月城さんの家だ。
「あっ、兄さん! 俺の隣に!」
この少年は
「良いのよ? 座って待ってて?」
この綺麗な人は
「そうだぞ?」
このダンディーな人は
優しくて話もしやすい2人だけど、強いて欠点を挙げるならまさかの同じ名前で、その呼び方で一悶着ある位。おじさんおばさん呼びは禁句だ。
「ちょっと!? 湯真兄?」
そしてこいつの名前は
「なんか言った?」
「言ってねぇって」
あぶねぇ。とっ、とにかくこの通り、俺達雨宮家の人間は……月城家に居候させてもらっている。
その理由は……まぁ仕方ないと言えば仕方ないモノなんだけど、正直最初聞いた時は耳を疑ったね?
だって、いくら昔からの知り合いで仲が良いからって……
ガチャ
「ふぅ、さっぱりした。んー、今日もお味噌汁良い香りね? ママ」
おっ、来やがったな?
「ありがとっ。恋桜も食べちゃってー」
「はーい」
先程盛大にやらかして、
「あっ、おはよう……湯真?」
「あっ、あぁ。おはよう」
俺に強烈なビンタをお見舞いした張本人!
つい先程、不可抗力で下着姿を見てしまった。こいつの名前は般若さん改め
同い年、同じ高校に通う2年生で幼馴染。
そして……
ガチャ
「ふぁーおはよう」
ガチャ
「ふぁーおはようございます」
ん? 来たな……って、よくもまぁ真逆のドアから同じタイミングで入って来れるな? この2人!
俺が思いを寄せる人の……
双子の妹だ。
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