第26話 やせ我慢の反逆
売店で無事に食料を調達することに成功した俺たちは、お姫様方が待つテーブルへと帰還を果たす。気分はさながら凱旋を果たす勇者だが、残念ながらこれから俺が行うのは王族に対する反逆行為である。
(……悪いな、真白)
再度、心の中で詫びる。
民原先輩のことを語る神崎先輩は、俺には眩しくて。
これが『愛』というやつなんだと素直に思うことが出来て。
(神崎先輩が『違う』と言った以上。それを知ってしまった以上……俺はお前の計画に乗ってやれなくなった。だから――――)
きっと今日の為に準備をしてきたんだろう。いつも通り計画を立てて、神崎先輩に関するリサーチも済ませて。
民原先輩のためを想って、オーダーメイドの完璧な仮面を作ってきたのだろう。
(――――お前が作ったその仮面、引っぺがせてもらうぜ)
されど。
神崎先輩が見たいものは、その仮面の下にあるんだ。
「午後からの予定なんですが」
神崎先輩オススメのホットドッグを全員が食べ終えたタイミングを見計らい、先んじて切り込む。
「俺ちょっと行ってみたいところがあるんですけど、いいですか」
隣で真白の肩が微かに揺れた。
傍から見れば分からないだろうが、これも彼氏役を続けてきた賜物だろう。表情に僅かなブレが出来たのも見逃さない。
「勿論だとも! この場に居る皆が楽しまねば、今日という日に意味はないからね!」
真白が口を開きかけ、言葉を発するよりも先に神崎先輩が俺の意見を肯定する。
ぶっちゃけていえば先ほど並んでいる間に打ち合わせた通りの流れではあるのだが、この人はナチュラルにこれの可能性もあるからな。
「民原先輩もいいですか? なんか、俺に付き合ってもらってるみたいで恐縮なんですが」
「うん。あたしも別にいいよ。むしろ、後輩なんだからもっとワガママ言っていいんだからね!」
民原先輩は快く了承してくれた。どことなく面倒見の良さがにじみ出てくるのは、普段から部活動で後輩の面倒を見ているが故だろうか。
「そういうわけなんだけどさ。真白も、俺に付き合ってくれてもいいか?」
「……はい。構いませんよ」
そうだろうな。外堀を埋めれば、『完璧』たるお前は頷くしかない。
ここで真白だけが強硬に反対すれば場の空気を壊す恐れがある。ヘイトコントロールの上手いお前がそれが分からないわけがない。
だから頷くしかなかった。
たとえそれが計画にないことだとしても、だ。
「それで……灰露くんが行きたいトコって、なに?」
「ジェットコースターですよ」
事前にネットで軽く調べた程度だが、情報は頭には入れている。
「ほら、ここのジェットコースターって結構有名なんですよ。わざわざ他の県からやってくる人もいるぐらいで」
「あー! それ、あたしも知ってる! クラスの子が話しててさ、前からすっごく気になってたんだよね!」
今日の計画にジェットコースターは入っていなかった。というより、NGリストにぶち込まれていたものだ。
それは民原先輩も了承していて、今日は苦手な神崎先輩に合わせるという設定もあったはず。
「あっ……き、気になってただけだけどねっ! あははっ! 私、こういうの苦手だしっ!」
どうやら我に返って『設定』を思い出したらしい。民原先輩は誤魔化すような言葉を付け加えて笑いで誤魔化した。
やはり仮面は付け焼き刃。揺さぶればボロを出す。いや、そもそもこれは身内から揺さぶりがこないという前提のもと組み立てられた仮面なのだから当然か。
言ってしまえば砦の内側から攻撃を仕掛けられてるようなもんだから。
「そうですね……こういったアトラクションは、やはり苦手な人もいますから。特に、神崎先輩と民原先輩は絶叫系が不得手らしいですし……」
すかさず真白がこの提案の穴を突いてくるが、
「なに、問題はない! 先ほど絶叫系が苦手とはいったが、これを機に克服してみようかと思ってね!」
生憎とこの先輩は、既にやせ我慢する覚悟は出来ている。
「勿論、民原さんに強制するつもりはないよ。強制するつもりはないが……」
神崎先輩は立ち上がるや否や、自然に……いや、ほんの少しだけぎこちなく。
民原先輩に手を差し出した。
「共に勇気を出してみないかい?」
「――――っ……」
その、言葉は。その姿は。民原先輩の目にどのように映ったのかは分からない。
だけど。
「そう……だねっ」
彼女は、差し出された手を確かにとった。
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