03

 社長。肉を食いはじめる。私服。


「いっつも野菜ジュースだね?」


 社長は、肉にワイン。こんなに食べて呑んでも、社長は綺麗なボディラインを維持していた。自分なは真似できない。


「野菜ジュースは、命を繋ぐために飲んでるんです」


 事実、そうだった。わたしにとっては、必要なもの。


「野菜派か。肉とは相容れないわね」


「肉も食べますよ。普通に」


 普通のレストラン。だけど、料理は値段と釣り合わないぐらいに美味しい。


「おかわりぃ」


 社長。ほとんどできあがっている。


「はい。ただいまお持ちします」


 レストランの、おそらく店長であろうシェフ。銀色の左手をひらひらさせている。あれは、義手、だろうか。


「義手だと思うよ」


 社長。わたしの視線を確認していたらしい。


「手がついてもついてなくても、うまいものはうまいのよ」


「そうですね」


 社長と、ごはんを食べ続ける。


「まだ、スーツはこわいの?」


「はい」


 心の問題だから、たとえ社長でも、どうすることもできない。


「なにかあったら、言ってね」


「はい」


 窓越しに、外の景色を見る。


 雨が、徐々に強くなってきていた。予報とは違う。


「もしかしたら、早上がりするかもしれません」


「わかった。彼氏?」


「はい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る