第38話 意味深な予言 (ソシリア視点)
サーシャリア失踪の噂。
それは間違いなく、現時点で打てる最高の妙案だという自信が私にはあった。
少し黙り込んだ後、アルフォードも頷く。
「確かに、それなら効果的だな」
「もちろん、最初は決して大きな効果は得られないでしょうけどね」
伯爵家の方も、必死にサーシャリアの不在を隠そうとするのは間違いない。
最初はどの商会も、本気にしないに決まっている。
だが、後々その噂は大きくなっていく。
何せ、本当に伯爵家にサーシャリアはいないのだから。
その歪みは、決して長い間隠し通せるものではない。
サーシャリアという核を失った伯爵家は間違いなくぼろを出す。
そして、そのぼろはどんどんと噂を強大に成長させていく。
それこそ、誰の手にも負えないほどに。
「噂が大きくなれば、伯爵家から商会を離れさせるには充分よ。商会の多くが価値を見いだしているのは、伯爵家じゃない。サーシャリアの名前なのだから。サーシャリアがいないとなれば、急速にその信頼は失墜する」
「……そして、噂程度なら俺たちの関与に気づかれる可能性も低い」
「ええ!」
満面の笑みで、私は頷く。
そう、私がこの考えを妙案とする理由こそが、そのリスクの低さだった。
噂を広めようとするならともかく、人知れず流すだけならどこから流したのか、気づかれるおそれはほとんどない。
そもそも、噂が本格的に広まり出すのは、伯爵家がぼろを出し始めたときだ。
そうなれば、前もって噂が流れていたことを意識する人間もいないだろう。
私が流した噂は人知れず、伯爵家の噂を暴くのに協力してくれる、ということだ。
我ながらよく考えられた策に、私は会心の笑みを浮かべる。
「……そう、か」
しかし、そんな私の話を聞くアルフォードの表情に浮かぶのは、何とも言えない表情だった。
不安を覚えた私は、アルフォードに尋ねる。
「もそいかして、何か穴があった?」
「いや、妙案だと思うぞ」
「……だったら、何でそん気乗りしない表情なの?」
「いや、もしかしたらなんだが」
そこで少し悩むように口をつぐみ、少ししてからアルフォードは告げる。
「……その策は必要ないかもしれない」
「え? どういうこと?」
私が尋ねると、アルフォードは首を横に振る。
「だから、もしかしたらだ。セインも伯爵家についてすぐに聞いたことだから、信憑性は低いと言っている。……正直、俺も信じられないしな」
そこで一旦言葉を止めると、心底呆れた様子でアルフォードは続ける。
「けれど、もし本当なら。……伯爵家は俺たちが手を出すまでもなく、自滅していくかもしれない」
「なに、それ?」
要領を得ない発言に、私は思わず首をひねる。
……しかし、近い未来その予言が的中することを、私どころかアルフォードさえ想像できていなかった。
◇◇◇
次回からカイン視点、本格的なざまぁになります!
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