第37話 作戦会議 (ソシリア視点)
話が終わってから、少しの間アルフォードは何も言わなかった。
けれど、私には理解できる。
アルフォードは何か言おうとしただけでも、爆発しそうなほどの怒りを抱いているのだと。
自分も同じくらい怒りを抱いていたからこそ、そのことが手に取るように分かった。
それから少しして、ようやくアルフォードは口を開く。
「……そうか、サーシャリアの婚約者はそんな人間か」
ゆっくりと押し殺した声音。
しかしそこには、殺気と言ってもいいような怒気が含まれていた。
「伯爵家ともども、報いは受けさせないとな」
ぞわり、と肌が粟立つ感覚を覚える。
久々に、アルフォードは激怒していた。
「昨日の時点で手を回していて良かったな」
「何をしたの?」
「辺境領に、マルクとリーリアを呼ぶ手紙を出した。セインには、影として伯爵家の情報を集めるよう頼んでいる」
今朝からセインの姿がないのには気づいていたが、すでに伯爵家を調べ始めていたとは思わず、私は息を呑む。
セインの表向きの近衛のスケジュールもあるのだが、昨日のうちに都合をつけていたのか。
アルフォードの行動の早さに、内心私は感嘆する。
同時に、それだけ本気で伯爵家を潰す気なのだと理解できた。
「やる気ね」
「当たり前だ。ソシリアも動いているんだろう?」
敵意を露わに笑いかけてくる、アルフォード。
その表情に答えるよう、私も笑って告げる。
「当たり前じゃない。大手の商会には、情報を流しているわ。伯爵家から手を引きたくなるような、ね」
伯爵家の一番大きな事業は、辺境領との交易だ。
だが、その大きな交易だけが、伯爵家の事業ではない。
辺境泊交易のお陰で、信用できる商会として名がしれているが故に、様々な事業にも手を出している。
そして、もし信用が没落してその事業がなくなれば、伯爵家は大きなダメージを負うだろう。
「……確かに有効的なのは事実だが、必要以上に手は出すなよ」
けれど、私の言葉を聞いてアルフォードの表情に浮かんだのは、不安げな表情だった。
「あくまで俺たちがサーシャリアを匿っていると気づかれるわけには行かない」
「ええ、分かっているわ。私たちはあくまで、サーシャリアの失踪を知って動き出しただけ。その建前がいる」
それ故に、私たちが動くのは後手でなければならない。
伯爵家に対し、常に優位を取るため、そしてサーシャリアに余計な負担をかけることを避けるために。
「だから、俺たちが前もって動けるのには限りがある」
だからこそ、アルフォードは何度もそう念を押してくる。
なんとしても、サーシャリアに負担をかけたくないらしい。
といってもそれは私も同じで、だからこそ私には自信があった。
「大丈夫、私もその限りの中でしか動いていないわ。その限りで、最高の効果をもたらす手を打っただけよ」
この方法は、間違いなく伯爵家とカインだけに、最大の効果を発すると。
「それは……」
なにか、察した様子のアルフォードに頷き、私はにやりと笑って告げる。
「私が流した情報は──サーシャリアが伯爵家から失踪したかもしれないという噂よ」
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