第8話 裏切りの発覚
「何を考えているのですか! 私達が事業を拡大できている理由は、好意の上に成り立っていると何故分からないのですか!」
そう両親へと言い放つ。
……それほどに、両親が考えているのは信じられないことだった。
私の事業、それは魔の森に面するアイルタント伯爵領に、武具などを持っていき。
その対価として魔物の毛皮や爪などの素材を得て、王都で売り払う貿易だ。
当初、素材は高額で取引されるにも関わらず、アイルタント伯爵領で貿易が行われることはほとんどなかった。
その理由は魔物があまりにも多かったこと。
いくら素材の価値が高くても、危険な上、多数の護衛を雇うことを考えれば、割に合わなかったのだ。
そんな中、学園に通っていたアイルタント伯爵家の令息と私が協力し、伯爵領を繋ぐ貿易路を作ったのだ。
当時希少さと効果の不確定さで一部の貴族しか持っていない、魔物よけを行商人に持たせることで。
その結果、私達は多くの利益を出し、財政難だった私達、カルベスト伯爵家も大きくなった。
けれど、魔物よけの効果が周知された今、伯爵領に行ける商人は私達だけではない。
そんな中アイルタント伯爵家が私達と取引してくれるのは、その時のことを恩に感じているからだ。
……その好意を勘違いし、横領など考えればこの事業は直ぐに破綻する。
「何を言っている? 辺境伯など、恐れるに足らんだろう。例え、少し儲けを多く取っていると分かっても、あの田舎者などにはどうすることもできんさ」
「ええ。さすがの辺境伯も、私達のしてあげた恩を忘れたりはしないわよ」
けれど、そんなことを両親達は分かってもいなかった。
無関係のくせに、さも自分達が恩を売ったと言いたげな両親の姿に、私は唇を噛み締める。
アイルタント伯爵家のことを何も分かっていないと。
辺境伯、それはこの王国が建国された当初、侯爵という身分の代わりに使われた名称だ。
だが、少し前までアイルタント伯爵家を辺境伯と呼ぶ際に込められていたのは嘲りだった。
辺境の何もない田舎。
そんな意味を込めて、今までアイルタント伯爵家は辺境伯と呼ばれていた。
しかし、今はもう違う。
交易で莫大な利益を生み出しているアイルタント伯爵家を辺境伯と呼ぶ時、それは建国当時と同じ意味を伴っていた。
元々、魔物と戦う兵士は強靭な上、経済力まで身につけたアイルタント伯爵家。
その家が、侯爵の位を貰う日も遠くないと言われている。
決して、僅かばかり余裕が出てきただけの私達カルベスト家が見下せる家ではないのだ。
それどころか、横領が発覚すれば交易断絶だけではない、大きな罪に問われるだろう。
そう判断した私は、はっきりと告げる。
「私はカルベスト伯爵家に戻りません。もちろん、事業にも手を出しません」
その瞬間、両親の顔が歪むが私は真っ直ぐと見返す。
ここで私が引かなければ、両親はマルクとカイザスを戻すしかない。
そうなれば、凄腕の商人である二人のことだ。
私よりももっと上手くやってくれるだろう。
「……本当に生意気な。どうして、そこまで婚約者に思いを寄せれるのか」
私が引く気がないことを理解したお父様は、忌々しげに舌打ちを漏らす。
それでも、ここで引いては伯爵家に不利益しかありえないと知る私は、気を引き締める。
しかし、そんな私へとお父様は衝撃の事実を告げた。
「──お前の元婚約者は、アメリアの誘惑に引っかかる程度の思いしか抱いてないというのに」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます