第4話 部屋での決意

「どうして、いつもこうなるの……!」


 ようやく私が苛立ちを顕にできたのは、自室でのことだった。

 抑えきれない苛立ちに耐えるよう、強く拳を握りしめながら、呟く。


「なんで、アメリアばかり!」


 いつもそうだ。

 全ての人間が、アメリアの味方をする。

 お父様や、マールスだけではない。

 使用人でさえ、陰では自分を嘲っていることを、私は知っている。

 いつものことだと分かりながら、それでも私は自分の感情を抑えることができなかった。


 例え、自分が悪いのだと……私の気の強さが他の人を遠ざけているのだと分かっていても。


 ──可愛げのない。


 今まで両親に、アメリアに言われてきた言葉が頭に過ぎる。

 私だって知っているのだ。

 自分の態度こそが、何より他の人を苛立たせることを。

 だから、可愛らしいアメリアが私より優先されるのは当然のことだと。


 それでも、カインだけは諦められなかった。


「……だとしても、今回だけは!」


 この婚約は、少し前にカインの方から申し込まれたものだ。

 まだ私とカインは、知り合って間もない。


 それでも、カインは結婚を申し込む時に言ってくれたのだ。

 気が強くても構わないと。

 家族として、すれ違いを治していけばいいと。


 そんな言葉をかけてくれた彼を諦めるなんて、私には納得できなかった。


 けれど、今ここでまたアメリアに訴えたところで、無駄なのは分かりきっている。

 今日の様子を見る限り、どれだけ訴えてもアメリアが聞くことはないだろう。

 だとしたら、残された手段は一つ。


「お父様とお母様に直訴するしかない」


 現在、お父様もお母様も屋敷にはいない。

 伯爵家の事業のため、王都に向かっているのだ。

 帰ってくるのは、おそらく明後日。

 その時に、何とかしてアメリアを止めるよう説得するしかない。


 ……両親達はアメリアに味方するだろうことを理解しつつ、私はそう覚悟を決める。


 もう、両親を説得するしか選択肢は残っていない。


「少なくとも、勝算がないわけじゃないわ」


 伯爵家の事業、それは元々学生の頃の私が興したものだ。

 カインとの婚約にあたって、私はその事業を両親に引き継いだが、それまでに改善案を考えていた。

 それと引き換えに私の味方となって貰うのだ。


「こんなことで、カインを奪われてたまりますか!」


 唯一の私の味方のカイン。

 それを絶対に取り戻すと、私は決意を新たにする。


「そう。もう私には、カインしか味方がいないんだから」


 ……ふと、私がかつて味方となってくれた人達を思い出したのは、その時だった。


 それは学生の頃の生徒会。

 あの頃は、本当に楽しかった。

 私の努力を皆が裏表なしに認めてくれて、あのと一時だけは私も思えたのだ。


 自分も、劣った人間じゃないじゃないかと。

 あの時の皆は、一体どうしているのだろうか。


「今は、目の前のことをしないと」


 そこまで考えて、私は思考を止める。

 それ以上考えると、今の惨めな自分がより強調される気がして。


「……とにかく、明後日までに全てを整えないと」


 改善案を詰めると考えると、もう時間はないのだ。

 そう言い聞かせ、私は過去から目を逸らした。

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