第3話 責任の所在

 私に対する嘲りを隠そうともしないアメリアの姿に、一瞬私の頭に血が登りかける。

 だが、何とか怒りを抑えて、私は口を開く。


「……アメリア、貴女はカインに何をしたの?」


「あら、もう知っていたの? どうしよう」


 その顔に、言葉と反した笑顔を浮かべながら、アメリアは告げる。


「そうね、ごめんなさいお姉様。私、カイン様と婚約することにしたの。……カイン様に告白されてしまったの」


「……っ! ふざけないで!」


 私が怒りを抑えられなくなったのは、その瞬間だった。

 アメリアを睨みつけながら、私は叫ぶ。


「何が、告白されてしまった、よ! 貴女が何かしたんでしょ!」


 いつもそうだ。

 アメリアは何か手を回し、まるで私が悪者のように振る舞う。

 周囲の同情を招くように。


 今回も、カインに何か手を回したことは、簡単に想像できた。

 怒りを隠せない私に、アメリアはさらに笑みを深くする。


「あら、そんな言い草はないんじゃない? 確かにお姉様の婚約者にあたるカイン様を取る形になったことは謝るわ。それでも、これは仕方ないことじゃない?」


 私の反応を楽しむような、いやらしい笑みを浮かべアメリアは告げる。

 私の大っ嫌いな言葉を。


「──本当に悪いのは、カイン様をつなぎ止めておけなかったお姉様の可愛げのなさじゃないの?」


 どうしようもない怒りに、私は奥歯を噛み締める。

 それは、私の嫌いな言葉だった。


 私とアメリアが喧嘩し、親切な人のおかげでアメリアが悪いと分かっても、両親は絶対に認めない。

 そんな時、いつも両親は言うのだ。


 本当に悪いのは、アメリアがそんなことをしたくなるようにしたお前の責任じゃないか。

 可愛げのない娘だと。


 喚き散らしたいような激情を覚えながらも、それでも私は何とか押し殺した声を出す。


「……いいから、カインから手を引いて」


「言ったでしょ、お姉様。カイン様から告白されたのよ。私にはどうしようもないわ。いくら、侯爵令息に逃げられたからって」


「違う!」


 そう叫ぶと、アメリアの私を馬鹿にしたような笑みが、一瞬消える。

 そんなアメリアを真正面から睨みつけ、私は告げる。


「私が欲しい婚約者は侯爵令息じゃない。ただのカインよ! ……だから、彼だけは奪わないで!」


 その私の言葉に、一瞬アメリアの目が見開かれ、次の瞬間その目に怒りが浮かぶ。

 けれど、何とか口元だけは笑みの形に取り繕う。


「だから、お姉様言っているでしょ。私に言われても、どうしようもないって」


「……っ!」


 いつまでものらりくらりと交わし続けるアメリアに、私はさらに続けようとして。


「そこまでだ」


 背後から声が聞こえたのは、その時だった。

 言い争いに熱中して、背後の注意が疎かになっていたことに気づいた私が振り返ると、そこにたっていたのは、私の義弟にあたるマールスだった。

 マールスは、アメリアを守るように立ちはだかり、私に冷ややかに告げる。


「いくらなんでも惨めだよ、姉さん。それ以上アメリア姉様に迷惑をかけるなら、僕も容赦はしないよ」


 その言葉に、私はこれ以上は無理なことを悟る。

 マールスは、伯爵家に姉妹しか生まれなかったことで、次期伯爵家当主として迎えられた養子で、血の繋がりはない。

 けれど、既に家の力関係を理解したマールスは、両親と同じくアメリアに味方するようになっていた。


 そんなマールスが来た以上、もうアメリアを説得するのは不可能だ。


 そう悟った私は、マールスの手を強引に払いのけ、無言で歩き出す。

 ……私にできたのは、そんな僅かな抵抗だけだった。

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