盗賊に与する悲しき歌人フィール!

早目に休んで早朝になりました。どうやら盗賊団もしっかり休んでからの御到着のようですね。


日が登り、辺りがしっかりと明るくなった頃に【血濡れ狼】の盗賊団がやってきた。そして盗賊団がやって来る前にパパとギルマスが私を紹介したの!


「情報通りならもうすぐ盗賊団がやって来る!そこでこちらも切り札を用意した!」


そこにシオンが現れた。


「あれはシオン嬢ちゃんじゃないか?」

「領主様の娘さんがどうした?」


広場にいた冒険者や守衛さん達は首を傾げてシオンに注目した。シオンは父親に与えられた首飾りを握りしめ、念じると目の前にピアノが現れた。


「マジックアイテムか!?」


察しの良い冒険者はすぐに反応した。ダンジョンや魔境の森の探索に重たくてかさばるテントなどを馬鹿正直に大きなリュックに背負って戦闘は出来ないため、特定の大きさの物を小さく出来るマジックアイテムが開発されたのだ。


無論、値は凄く張るが上位アイテムには【収納】と言って亜空間になんでも物を仕舞えるポーチもあるので、そこまで手が出せないほど高くはないのだ。


シオンは、幼少の頃から貴族の嗜みとしてピアノを習っていた。自分でピアノを弾きながら唄いだす。


『我々に熱き火を灯す____勇気を持って敵から守る光を


遥かなる頂きにある魂____今、皆の力を呼び起こし脈打つ絆


全てを包み込む心を1つにして____弱き心を打ち砕け!』


支援系魔法の魔詞を唄った!

辺りに眩しい光が発生し、広場に集まった人々全員に暖かな光に包まれた。


「これは!?」

「まさか魔詞か!?」

「えっ?シオンちゃんは歌人……!?」


広場にいた人々がざわめき、シオンを見据えた。


「皆、驚いただろう?シオンは歌人なんだ!これで相手の魔詞を相殺する!そうすれば相手はただの盗賊に過ぎない!」


うおぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!!!


「勝てる!勝てるぞ!!!」

「やってやるぜ!」

「シオン嬢ちゃんを勝利の女神にしてやるぜ!」


普通のこの魔詞は防御力を2倍にするのだが、シオンが唄うと3倍の効果がある。そして更に、恐怖に対する耐久性も上がる事をまだ知らなかった。だからこそ戦闘になっても果敢に攻める事が出来るようになるのだ。


こうして最高のコンディションで盗賊団を待ち構えるシルフィードの一団だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

一方【血濡れ狼】の盗賊団─


数日前─

「がっはっはっ!!!王都の討伐隊も大したこと無いな!」

「そうだぜ!俺達は最強だ!」

「バカな奴らだったな!物資をたっぷり置いていきやがった!」


王都の討伐隊を返り討ちに、軍が持ってきた兵糧を頂いた【血濡れ狼】達だった。


「ゲース団長、本当にこのまま南下して辺境に行くんですかい?」

「おうよ!討伐隊すら返り討ちにしたとなると、次はもっと多くの人数が組まれるだろう。この人数では少し心もと無いからな。噂で魔境の森に隣接している村が景気が良いみたいだし、そこを占拠して砦を築くぞ!」


「なるほど!流石はお頭だぜ!」

「次の村は皆殺しは無しだ!貴重な人手として使うぞ!」

「了解でさぁ!」


慎重派の盗賊が意見する。


「ただ、ゲース団長!魔境の森が近いため冒険者ギルドがありますぜ?冒険者と守衛はどうします?」

「バーカ!だからいいんだよ!村を守る冒険者達を皆殺しにして俺達の強さを見せ付けるんだ!」

「なるほど!?そうすれば村人達も抵抗を止めて従順になりますね!」


ぎゃはははっ!と、酒を飲みながら村を占拠する事を楽しく話し合う盗賊をよそに、歌人が隅っこで細々と食事していた。


「フィール!明日も頼りにしているぞ!しっかりと食べて働いてくれよ!」


「…………はい」


小さく返事をした歌人のフィール。実はフィールはザーコ子爵領にある村に住む、ただの村人だったのだ。


ザーコ子爵領は他よりも税が高く皆、貧しいながらも何とか平和に暮らしていた。そこに【血濡れ狼】達がやって来て村を蹂躙した。フィールも親友と一緒に盗賊達の慰め者になるはずだったが、親友が抵抗して目の前で殺された事がショックで声に鳴らない叫び声と同時に、歌人の能力に目覚めたのだ。


『どうして?私達が何をしたっていうの?憎い!盗賊が憎い!高い税金を掛ける領主も憎い!力の無い自分が憎い!無力な村人が憎い!憎い!憎い!憎い!誰でも良いからこいつらを殺す力が欲しい!』


フィールの不幸は、【誰でも良い】と願ってしまったことだ。歌人の魔詞は自分で味方と認識した者に効果を与えることが出来る。でないと、唄を聞いて敵まで力を付けてしまうからだ。


今回のフィールの唄は盗賊達にも力を与えてしまい、フィールの村は全滅した。本来は【血濡れ狼】達も金品と食糧を奪って立ち去るはずだったがフィールの力を試したく村人を皆殺しにしたのだ。フィールは自分が村人を殺したと認識し、考える事を放棄してしまった。故に盗賊団の言う事を聞く何でも聞く人形になったのだ。


盗賊団のゲース団長もフィールには綺麗なドレスを与え、高価な宝石や装飾品を与えて厚遇してはいるのだ。しかし、心が壊れて心を閉じてしまったフィールには何も届かなかった。


そして今日も、盗賊団の言う事を聞く人形として働くのだった。



ポツリッ


…………誰か私を殺して─





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

【後書き】

愚者の声

「シリアスは苦手です」

シオン

「今回はおちゃらけ出来ないですね」

愚者の声

「ダークな話も苦手なのですよ」

(´・ω・`)


シオン

「私が救って見せますわ!」



お願いします!




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