岐路に立つ者へ
紀伊谷 棚葉
岐路に立つ者へ
俺は悩んでいる。
これから進む先が見えない。
一致しない、なりたい自分とあるべき姿。
行動を起こそうとする希望と、停滞すべきと促す現実。
「今を変えよう」と言う前進と、「それは逃げだ」と言う後退。
選ばなくてはならない、生きるために、守るために。
今の状況を整理してみよう。
30代前半、どこにでもいる平凡なサラリーマン。
結婚2年目、嫁は妊娠3ヶ月。
月7万円の賃貸暮らし。そろそろマイホーム購入を検討中。
特にこだわった趣味はなく、ギャンブルもしない。
人並みに読書やゲームにいそしみ、たまに友人と飲みにも行く。
嫁と肩を並べてテレビのバラエティ番組を笑いながら楽しむ。
そんなどこにでもある日常を繰り返している。
きっかけは仕事だ。
上の人間には噛みつかず、下の人間には愛想よく。
それなりの仕事を与えられ、それなりの評価を得て。
会社での将来を浅く広く考えつつ、ただ目の前の仕事をこなしていく。
ただただ人事の敷くレールの上に乗って、気づけば働いて10年ほど経つ。
そこに待っているのは責任と、それに伴う重圧。
俺はそれにつぶされそうになっている。
会社の上司が俺に言う。
「今が頑張り時だから」
「子供もできるんだから、出世しないと」
「もっと勉強しないと上の職に就けないよ」
時に冗談交じりに、時に厳しい口調で、言い聞かせてくる。
時に笑みを混ぜながら、時に真剣な面持ちを作りながら、俺は言う。
「はい、わかりました」
友人や会社の同僚が俺に言う。
「お前もパパになるんだな、時が経つのは早いもんだ」
「お互い仕事頑張ろうぜ、もう夢見る歳でもないし」
「俺も結婚してぇー!Eカップの美人OLとオフィスラブしてぇー!」
時に飲みの席で、時に会社の休憩室で、話しかけてくる。
時に酒に酔いながら、時に弁当を食べながら、俺は言う。
「ああ、そうだな」
両親や妹が俺に言う。
「子供もできるし、家も買うとなると頑張らないとな」
「仕事先で嫌なこととかないの?体調には気をつけてね」
「あたしもそろそろ結婚するかも。ご祝儀よろしく!」
時に実家で、時に電話やグループラインで、近況を報告しあう。
時に実家の玄関前で、時にスマホを見つめながら、俺は言う。
「うん、大丈夫だよ」
嫁が、俺に言う。
「無理しなくていいよ」
俺は、言う。
「…ありがとう」
きっと、俺だけじゃない。俺よりひどい立場の人もいるだろう。
そんなことは、わかっている。比べるようなことじゃないことも。
過去を振り返ることもあった。
学生時代での選択、就活時期での選択、入社初期~中期頃の選択。
今さら後悔しても遅い。
そんなことは、わかっている。重要なのは今であることも。
最終的にすべきことは決断を下すこと。
モチベーションの上がらない、今の仕事を頑張って、それなりの安定を得るのか。
自分のやりたい事を優先して、今まで築いてきた地盤を崩壊させるのか。
前者を取るべきと思う俺は、自分を殺して、社会の目を気にしているだけなのか。
後者を取るべきと思う俺は、生まれてくる子供のことすら浅く広く考えているのか。
選べないから、停滞するしかない。ただただ、時間だけが過ぎていく。
今、岐路に立つ者へ。
自分のやりたい事、興味のある事に対して、行動してくれ。
誰かに認められなくてもいい、自己満足だと思ったっていい。
現状に満足するな。思考を深く持って歩みを止めるな。
簡単にあきらめる選択をするな。安易な決断を下すな。
逃げてもいいけど、命綱は確保して、無理はするな。
自分だけで完結しないで、周囲の人を頼ることは恥じゃないから。
うまく言葉にできない、考えがまとまらないなら、一度紙に書き出してみてくれ。
岐路に立った時、決断を下す時、必ずそれが役に立つから。
あなたのことを決断できるのは、あなたしかいないのだから。
岐路に立つ者より
岐路に立つ者へ 紀伊谷 棚葉 @kiidani
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