7.調子に乗ってしまってたのかな
「・・・」
「・・・」
私は以前、ウェイド様を更生させるという大きな目標を掲げたわけですが・・・
「・・・」
「・・・」
コレは・・・無理。
- - - - - - - - - - - - - - -
ウェイドと婚約者として共に過ごす時間を増やすことになった。
そうして婚約者とのお戯れデー初日。
私は赤い髪と蜂蜜色の瞳に合う、紺色のドレスにワンポイントの赤と金の刺繍が入ったデザインのものを選んだ。
両親やマリアは、今までの好みのものとは大きく外れていたからか、不思議そうに首を傾げていた。
けれど12歳の割に体のラインがハッキリしていて、ほっそりしている私にはあまりフリフリリボンのドレスが似合わないと思った。
私がフリフリドレスを着ていて逆に落ち着かないという心境のせいでもあるけれど。
そのため、年齢の割に落ち着いた雰囲気で着こなせることが出来た。
「さあっ!あの生意気で意地悪捻くれ者のウェウィド様の根性、私、ツィーナ・デフレットが叩き直してさしあげますわっ!」
「お嬢様。ウェイド様です、ウェイド様。」
思いきし噛みながらふんすっと決めゼリフを言ったら、マリアに苦笑をされながら指摘された。
思いきし噛んだのを分かっててスルーしたのに、マリアは見逃してくれなかったようだ。
「お嬢様、あまり無理はなさらないでくださいね。先日の傷は見た目ほど深くはなかったですが、頭を強く打ったのです。気分が悪くなったり、ウェイド様が何か言ってきたら頭が痛いから帰るとでも言ってそのままお帰りになってくださいね?」
「ま、マリア・・・後半は、もはや仮病だけど・・・うん!分かったわ。ありがとう!」
マリアは優しく微笑みながら、最後に赤い髪を下ろしたまま綺麗に後ろを編み込んで、金色の花飾りをつけてくれた。
「ふふ、お嬢様の紅玉のように美しく輝く髪の毛にこの金の髪飾りはとても映えますね。清楚でとても素敵です。」
そんな風に一々褒め殺されたら、命がいくつあっても足りないわ・・・と思ったが12歳の子供らしくないので口にはしないことにした。
「えへへ・・・」
「では・・・お嬢様、行ってらっしゃいませ。屋敷の事情で私は共に行くことができませんが、頑張ってくださいね?」
私の髪の毛をそっと優しく撫でて、マリアは送り出してくれた。
かわりに、最近入ったそばかすの侍女とカニンガム家へ向かうことになったのだ。
そうして冒頭へと戻る。
「・・・」
「・・・ふ、ふふふ、きょ、今日もとても素晴らしいお天気ですね?」
不自然な声掛けに眉を顰めたまま、こちらを睨みつけてくる少年が一人。
「・・・」
「・・・て、庭園もとても美しいですわ。あまり広くないとの噂でしたがその分どこのお屋敷よりも丁寧に、美しく手入れされていて・・・」
不自然な声掛けをして、痛い視線が刺さっているのに不自然な表情すら崩さない少女が一人。
「・・・」
「いっ、一日中ここにいても退屈しなさそうですね!」
最後は令嬢スマイルではなく、純粋な少女スマイルで抵抗してみた。
冷や汗が出てくる。更生させる云々じゃない。話にならないのだ。
どうしてこんなに沈黙を貫いているのだろうか。
そしてどうして私をそんなに凝視しているのだろうか。
「・・・ここの庭が気に入ったのか?」
突然表情を動かして、ウェイドは聞いてきた。
しかも、身を乗り出して。・・・ウェイドは、ここの庭園がお気に入りなのだろうか?
「え、ええ!大規模すぎる庭園は私にとってあまり居心地良くなく息がつまるのでこのような庭園はとても居心地がいいです・・・あと、お花や樹木の種類もたくさんあるけれど配置もとても考えられているように思います。・・・私は素人ですのでそういう目利きはできませんが、とても可愛らしくて、ここの庭師は心を込めてお手入れをしているのだなと!」
イギャァァァァァ。
オタク特有の弾丸トークを発射してしまった。
そのせいかウェイドも引いたようで、片手を顔に当てて隠していた。
「・・・どに?」
「え?」
何を言ったのかわからず聞き返す。
ウェイドは聞き返されたのが気に食わなかったのか、怒ったように顔を真っ赤にさせ私に聞き返した。
「・・・だからっ、一日中ここにいても退屈しないほどにか!?」
「え、え?あ、ハイそうです!」
「・・・」
(何で私が怒鳴られなければ・・・)
ぼかぁ無実だぁ!と心の叫びを放ちながら、しょぼしょぼとウェイドを見ると、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向かれた。
「な、成金子爵令嬢のわりには、いい目をしている。」
褒めているのだろうか?と首を傾げたくなる物言いだけれど、ここで引いては私の目標が達成されないだろう。
「ありがとうございます。またウェイド様のお屋敷でお茶をするときには、お花のことも詳しく調べておきますね?」
「・・・ハッ、そうか。いい心がけだな。初めてお前を見直した。」
(平常心へーじょぉーしん)
少しの苛立ちくらい死亡フラグと比べたらなんのその。
気持ちを入れ替えてウェイドに話しかける。
「あの、今日はワインレッドのスーツなんですね。」
「・・・」
「胸元につけている金色の装飾、とっても綺麗です!」
これは本音です。
全部本音で話しているけど、これはさっきの会話よりも素直に思えたことだからするりと喉からでてきた。
特に、ウェイドの髪色を考えると──
「ウェイド様の真珠みたいに綺麗な髪ととっても似合っていて素敵です。」
そう、そう言っただけだ。
「────っ!」
けれどそう言った瞬間にウェイドは顔色を変え、勢いよく立ち上がった。
その勢いのせいでガチャガチャとティーポットやカップが音を鳴らす。
「──心にもないことを言いやがって・・・!!」
「きゃっ・・・」
(あああ、お菓子が崩れて落っこちる、もったいないですわ!)
お菓子を死守したいあまり顔面蒼白になる。
実際は、混乱しまくっていてそんな事を考えれてはいなかったけれど。
ウェイドはそんなことお構い無しにさらにテーブルを拳で叩いた。
「形だけの婚約者だからって、思ってもないことを言いやがって・・・!お前らは影でバケモノのようだと、普通じゃないといつもいつも俺を笑いものにするくせにっ!────ふざけるな!」
「えっ、うぇ、ウェイド様!」
そのまま踵を返して、ウェイドは走り去っていった。
感情のあまりの落差に絶句してしまう。
・・・けれど、私の言葉は彼にとって恐ろしいものだったのだろう。
私の真意がわからなくて。本当は悪意を持って接してきているのでは、と疑心暗鬼になっている。
「え・・・ど、どうしよう・・・どうして」
零れた紅茶がびちゃびちゃに私のドレスを濡らしていたのに気がついて俯く。
──私の言葉は、無責任だったのかしら。
「ウェイド様を・・・傷つけたのかな。」
私に、深く心に傷を負った彼を追いかける勇気はなかった。
気づいてなかった。
彼をゲームのキャラとして同じように扱っていたのを──ウェイドには、感情があるのに、それを考えず調子に乗って距離を詰めたことを。
(私、私、悪くない・・・だって、ウェイドが私の死亡フラグだから・・・もう)
自分が無神経すぎて嫌になった。
気がついたら頭がズキズキ痛くなって、苦しくなってうずくまってしまっていた。
「わかんないぃぃ・・・」
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