競争社会って疲れますよね?あれっ、僕だけですかね?

GK506

第1話

夢をみたい。


望む物全てを手に入れて、思うままに生きられる、強い男になる夢を。


 夢の中で生きていたい。


 誰もが笑って生きていられる、敗者のいない、夢の世界のその中で。


 この世界はあまりにも残酷で、現実はあまりにも救いのないものだから。


 小鳥のさえずりと、窓からこぼれる柔らかな陽光が、新しい1日の始まりを告げる。

 また、夢を見る事が出来なかった。

 僕は夢を見た事がない。

 物語に出てくるヒーローや、自由に空を飛び回る鳥。

 自分ではない何者かに成り代わり、自分という存在を忘れさせてくれる。

 そんな夢を見る事を夢見て15年と数ヶ月、今日までの約5千5百回の眠りの、その一度たりとも、僕を夢の世界へと誘ってはくれなかった。

 眠い目を擦りながら、何とか2度寝の誘惑を振り切って、布団から抜け出す。


 朝は嫌いだ。


 特に、雲一つ無い晴れた日の朝は、堪らなく憂鬱な気持ちになる。

 新しい世界の始まりの光は、僕には堪らなく眩しくて、今日という1日を、僕という人間で生きていくのが億劫になってしまう。

 それでも、出来れば親を悲しませたくはないので、僕は目一杯の気合を込めて、他人の望む理想の僕を作り出す。


 生きる為のモチベーションが僕には無い。


 別に、人生にこれといって不満は無いのだけれども。

 むしろ、複雑な家庭環境に置かれていたり、凄惨なイジメ被害にあっている者達に比べれば、とても恵まれているとさえ言えるのだろうけれども。


 でも、こんな事を言ったら怒られてしまうだろうけど。

 僕は、そんな分かりやすい不遇が欲しかった。


 昨日とさして変わらない今日を生きて、今日と見紛う程に無価値な明日を生きる為のスキルを必死で身に付けるという、滑稽な日々の中で、いつの間にか、僕は僕を失くしてしまっていた。


『おはよう』


 母の事は好きだけれど、思春期真っ只中なので、素直に愛情を表現出来ない、そんな型通りの15才の少年然とした『おはよう』の言い方を上手く再現出来ていただろうか?等と考えている僕に、


 『おはよう、ご飯出来てるよ』

 と、特に僕の挙動に不信感を覚える事も様子も無く返してくる母親を見て、今日も母の息子である所の僕を十全に演じられているらしい事に、ほっと胸を撫で下ろす。


 『いただきます』

 と合掌をしてから、熱々の味噌汁を舌を火傷しない様に気をつけながら、ゆっくりと流し込む。


 『どう?高校生活にはもう慣れた?』

テレビ画面に目を向けたままの母が、僕に尋ねてくる。

 『それは、勉強がって事?それとも人間関係?はたまた部活の事でしょうか?』

『全部。総合的に学園生活を精査したら、どんな感じ?』

 『そうだな、勉強は絶望的だけど、人間関係はまぁまぁだし、部活は順調だから、総合的に評価すると、5段階評価で3って所かな?』

 『成る程ね、じゃあ人間関係と部活動は捨ててしまって構わないから、全力で勉強に取り組みなさい。それが高校生のあるべき姿なのだから』

 依然として、テレビ画面に目を向けながらではあるけれども、母の言葉には、何か脅迫めいた力がこもっている。





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