甘えん坊の妹は知らぬ間に異世界で魔王を倒していた
とおさー
妹
「ついに、ついに帰ってきました!」
私は2年ぶりに見る日本の街並みに感動しています。当たり前のように自動車が通り、当たり前のように人々が行き交うこの光景は、昨日までの私には信じられないものでした。
なぜならついさっきまで異世界にいたからです。
ある日突然、目が覚めると知らない世界にいました。そこには王様がいて魔王を倒してくれと懇願されました。正直何が何だか分かりませんでしたけど、魔王を倒さなければ帰れないという事実を知り、私は勇者として全力で頑張りました。毎日毎日特訓をして、強い敵と戦って、それから2年が経過したころ。
ついに魔王と対峙しました。
魔王は2年前に一度倒されたはずなのですが、すぐに復活してしまったようです。なので私は魔王を封印することにしました。魔法をたくさん撃って弱らせると、私は全力で封印魔法を放ちました。
そして無事に魔王を封印することに成功しました。
こうして世界は平和に戻ったのです。
その後私はもとの世界に戻ってきました。
異世界に残るという選択肢もありましたが、私には大切な家族がいるので、迷うことなく帰ってきました。
大切な家族——それはお兄ちゃんです。
そう、私はお兄ちゃんのことが大好きなのです。
※ ※ ※
「ただいまです」
「おかえりー……ってくるみ⁉︎」
「お兄ちゃーーーーーん」
家に帰ってきたらお兄ちゃんが料理を作っていました。以前は当たり前だったこの光景。2年ぶりにそれを見て感動してしまった私は、加速魔法を使って全速力でお兄ちゃんに抱きつきました。
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん」
「いきなりどうしたんだよ。くるみらしくないぞ?」
「2年も会えなかったんだから仕方がないじゃないですか。ああ、これがお兄ちゃんの匂いなんですね。久しぶりすぎて泣きそうです」
「2年って何のことだよ。今朝だって俺の布団に入ってきたじゃないか」
お兄ちゃんは私を振り解こうとしながら言ってきます。でも私は勇者です。ドラゴンさえも素手で倒した怪力の持ち主です。お兄ちゃん程度の力ではたとえどんなことをしても絶対に振り解けません。
それにしても少し気になる事があります。
「お兄ちゃん、今は何日ですか?」
「何日って……7月7日だけど」
「2020年のですか?」
「当たり前だろ。くるみ大丈夫か? さっきからちょっとおかしいぞ」
なるほど。2020年の7月7日は私が異世界に飛ばされてしまった日です。つまりこの世界では時が進んでいないようです。時間の流れが違うのでしょうか?
でも私の体は成長しています。身長は1センチも伸びたし、胸も一ミリくらいは成長しています。中学2年生だったあの頃とは違うのです。絶対に違うのです。
「痛い痛い痛い……抱きしめる力が強すぎるだろ。勘弁してくれ」
「あっ、ごめんなさい」
ついつい力が入ってしまいました。
それにしても時は進んでいないのに肉体だけは成長しているということですか。つまり肉体的にはお兄ちゃんと同い年になります。
あのお兄ちゃんと同い年…………なんですかそれは! 最高にもほどがあります。だって考え方によっては同級生になれるってことじゃないですか。兄と妹が同級生。普通なら絶対に実現しない、とっても素晴らしいことです。人類がもたらした奇跡と言っても過言ではありません。
なら早速手続きをする必要がありますね。
「くるみ、どこに行くんだ?」
「役所に行って戸籍を改竄してきます」
「くるみ⁉︎」
「30分ほどで戻ってくるので大丈夫です」
「何をどうしたら30分で役所に行って戻ってこれるんだよ! そんなわけないだろ」
お兄ちゃんはびっくりしていましたが、勇者ならこれくらいのことはできます。
私は転移魔法を使って役所に向かいました。
「おかえり。本当に30分で戻ってきたな」
「ただいまです。無事お兄ちゃんと同じ高校に通えることになりました」
「何をしたらそうなるんだよ!」
役所についた私は洗脳魔法、記憶消去魔法などを駆使して自分の都合の良いように戸籍を改竄しました。
その結果……
氏名:古川くるみ
年齢:17歳(高校2年生)
ということになりました。いや、そういう設定に書き換えました。
それからついでにお兄ちゃんの高校にも行ってきて、転校生という形でお兄ちゃんのクラスに編入することになりました。いや、そうなるように改竄しました。
「ご飯できたよ」
ソファーに座ってお兄ちゃんの様子を眺めていると、お兄ちゃんがカレーを持ってきてくれました。
「お兄ちゃんのご飯ですか!」
およそ2年ぶりです。昨日まではドラゴンの肉やオークキングの肉などのスタミナ料理しか食べていませんでした。なのでカレーのスパイシーな香りが堪りません。食欲をそそります。
「「いただきます!」」
二人揃ってお食事の時間です。
お兄ちゃんと二人で食事できることに幸福を感じながらも、私はぱくぱくとカレーを食べます。美味しいです。
「なあくるみ、気になってる事があるから聞いてもいい?」
するとお兄ちゃんが食べる手を止めて言いました。
「さっきから走り回ったりしてるけど体の方は大丈夫なのか? 今朝まではあんなに痛そうにしてたのに……」
「えっ?」
私は一瞬何を聞かれたのか分かりませんでした。体の心配なんてされるような…………あっ。思い出しました。
私は生まれつき体が弱くて頻繁に熱をだしていました。そのせいで学校にも行けず、不登校で友達もろくにいない。そんな状況で、お兄ちゃん以外に信頼できる人は一人もいませんでした。
今までいろいろなことがありすぎてすっかり忘れていましたね。
でも今は元気になりました。異世界に行ってからはとても丈夫で健康な体になったのです。
「もう体の心配はしなくても大丈夫です。私は元気いっぱいです」
「本当に大丈夫なのか?」
「もちろんです。今なら車だって片手で持ち上げられますよ」
「そうか。それはすごいな、はは」
お兄ちゃんは目元を手で覆いながら笑いました。鼻水を啜る音が聞こえます。
「本当によかった。本当に」
どうやらお兄ちゃんは私のことを本気で心配してくれたようです。それがよく伝わってきます。
我慢できなくなった私は転移魔法でお兄ちゃんの背後に回りました。そして思いっきり抱きつきます。
「転移魔法⁉︎ ってやめろ。食事中に抱きつくな」
「嫌です。私は離しません。何があっても絶対にお兄ちゃんにしがみつきます」
「どんな嫌がらせだよそれ」
「お兄ちゃんのヒモになります」
「堂々とニート宣言するな!」
お兄ちゃんと過ごす毎日。
それが戻ってきて私は本当に幸せです。
※ ※ ※
「お兄ちゃんおはようございます」
「んーおはよー……って、なんで俺の布団の中に?」
「私は妹ですよ。お兄ちゃんの布団に潜るのは当然の権利です」
「そんなわけないだろ!」
翌日。お兄ちゃんの布団に侵入した私は早速抱きついていました。
「こら、離せって。早く布団から出ないと遅刻するだろ」
「私が送るから大丈夫です。1分もあれば間に合います」
「ヘリコプターでも間に合わないよ!」
転移魔法なら一瞬です。
でも私はお兄ちゃんを解放しました。そろそろ話す必要があると思ったからです。私が異世界に行っていたということを。
「お兄ちゃん、ちょっと聞いてもらってもいいですか?」
朝食の食パンを食べながら話を切り出します。
「私の体は丈夫になりました」
「うん。それは本当によかったと思ってるよ」
「ありがとうございます。でもそれには理由があるんです。私は……」
お兄ちゃんの瞳を真剣な眼差しで見つめます。そして覚悟を決めると単刀直入に言いました。
「私は異世界で魔王を倒してきました」
「……………………そうか。ついにくるみにもこの時期が来たか。とうとう発症してしまったんだな。……厨二病という深刻な病を」
「お兄ちゃん⁉︎」
意外な反応に私は驚きを隠しきれません。
「分かるよ。俺もそうだったから。異世界で魔王を倒したいって思ったことあるから。でも実際は大変だからな。目を覚ますんだくるみ」
同情の視線を向けてくるお兄ちゃん。
違うんです。本当に倒したんです。
でもどんなに説明しても信じてくれません。
「むー、なら証明しますね」
「証明?」
「はい。私が異世界に行って魔王を倒してきたことを証明します」
「ほう」
「まずは……そうですね。雪でも降らせましょうか」
私は魔力を練り始めます。そしてベランダに出ると、思いっきりそれを放出しました。
「第8段回最終奥義魔法——スノーレイン……です!」
すると私の手から放出された魔力は一直線で空に向かいました。
「ほら、なにも起きないじゃないか。へ……へくしょん!」
お兄ちゃんはくしゃみをしました。と、ちょうどその時。
「嘘だろ。今は7月なのに……」
季節外れの雪が降ってきました。触れると冷たくてとても気持ちいいです。
「信じてくれましたか?」
「うっ……でも」
「他にも様々な魔法が使えますよ。例えば炎とか」
私は手から炎を放出させます。
「ちょっ⁉︎ そんなところで炎を出すな。火事になるって」
お兄ちゃんは慌てた様子で止めようとしてきました。
「信じてくれましたか?」
「分かった。信じるよ。まさかくるみがこんなに大規模な恐ろしい魔法を使うとは思わなかったけど」
お兄ちゃんは呆れたように言いました。
信じてもらえたようで嬉しいです。
「って、もうこんな時間だ。急がないと学校に遅刻する」
「大丈夫ですよ。私が転移魔法で送りますから」
「転移魔法?」
「はい。学校の目の前まで一瞬で飛ぶことができます。準備ができたら行ってください」
「お、おう」
お兄ちゃんは半信半疑の様子ですが、今はそんなことよりも大切なことがあります。
私は自分の部屋に転移すると、早速制服に着替えます。お兄ちゃんと同じ学校の制服。創造魔法で作ってみたのですが、果たしてサイズは合うのでしょうか。
「ぴったりです!」
魔法はうまくいったようです。
私は鏡の前でぐるっと一周すると、今度は髪型を整えることにしました。
異世界にいたときは全て後ろで束ねていましたが、この世界では髪が燃える心配がないので気兼ねなくおろせます。
私は髪を肩までおろすと、櫛で髪をとかします。
「完成です」
久しぶりにおしゃれをしました。これでバッチリです。私はリビングに戻ると、お兄ちゃんに制服姿を見せつけました。
「くるみ⁉︎ その制服は」
「似合ってますか?」
「もちろん似合ってるけど……なんでその制服を持っているんだ?」
「作りました」
「作ったのか⁉︎ すごいなくるみは。裁縫の腕もあるのか」
お兄ちゃんは感心したように頷きます。少し勘違いしているようですが、裁縫も創造魔法も似たようなものなので気にしません。
「準備は終わりましたか?」
「一応学校に行く準備はできたけど……」
「ならいきますね」
私は制服姿のお兄ちゃんに抱きつきました。
「くるみ⁉︎」
「動かないでください。私に触れていないと転移はできませんから」
「分かってるけどわざわざ抱きつかなくても」
「転移……です!」
全身に魔力を込めた私は転移魔法を発動させました。その瞬間、目の前は真っ暗になり……
「ハッ……ここは?」
次の瞬間には校門の前に着いたのです。
「すごいな。この距離を一瞬で飛べるのか」
「はい。これがあれば遅刻ギリギリまで家でお兄ちゃんとイチャイチャできます」
「それは勘弁してほしいんだけど」
「勘弁しません」
私は堂々と宣言します。今後は永遠にお兄ちゃんに引っ付く予定ですから。
※ ※ ※
魔法(洗脳と改竄)の甲斐あってか、無事私の編入は成功しました。お兄ちゃんのクラスに転校生として現れる。全国の妹が夢見る最高のシチュエーションが実現がしました。感無量です。
その後はクラスメイトに話しかけられるという、とんでもなくしょうもないイベントを適当に消化しました。下心丸出しで言い寄ってくる男子(羽虫)もいましたが、バレないように呪いを付与しておいたのできっと大丈夫です。
さて、お昼休みになりました。お兄ちゃんとお昼ご飯を食べないとです。
私は早速お兄ちゃんの机に向かいます。
「大人気だったな。クラスの注目の的だった」
「私はお兄ちゃん以外に興味がないので大迷惑です」
「大迷惑って……」
お兄ちゃんは呆れたような表情をします。本当に迷惑だったんです。
「さあ、早く行きましょう」
「行くって……どこへ?」
「屋上です」
「屋上は立ち入り禁止だよ。それに鍵がかかってるし」
「問題ありません!」
私は抵抗するお兄ちゃんを力づくで引っ張りながら屋上を目指します。
「ほら、鍵がかかってる」
屋上に続く扉にはお兄ちゃんの言う通り鍵がかかっていました。でもこの程度なら楽勝です。ドラゴンの表皮よりもやわらかいに決まってますから。
私は指からレーザーを発射させます。
「ええええ⁉︎ なんかドアが溶けてるんだけど」
「はい。完璧です!」
「どこが完璧なんだよ。鍵を溶かしたらダメだって」
「後で作り直すので安心してください」
「鍵って個人で作れるものなのかよ」
「はい!」
「いや、はいって」
お兄ちゃんは呆れていました。異世界ならこれくらいのことは子供ですらできるんですけどね。これが文化の違いというやつですね。
「さあ行きましょう」
「もうどうとでもなれ」
私が屋上に出ると、お兄ちゃんも開き直ってこちらにやってきました。
快晴の天気の中、二人きりで屋上にいる。
なんてロマンティックな展開なのでしょうか。もう色々と最高です。
「ブリザードウォール……です」
「って、なんで入り口を氷で固めてるんだよ!」
「念のためです」
もし万が一、別の誰かがここに来たら……そう考えるだけで不安になってきます。なのでそれを未然に防ぐために凍らせました。
この魔法なら少なくとも騎士団長クラスの人間でないと破壊することは不可能です。
これで安心して二人でお昼ご飯が食べられます。
私はルンルンで屋上のフェンスに腰掛けると、お弁当を広げました。もちろんお兄ちゃんが作ってくれたお弁当です。
「まさか屋上でお昼を食べることになるとは思わなかったよ」
「景色が最高です」
「確かにいい景色だな」
山に囲まれた学校ということもあって、お兄ちゃんを見るのに絶好な景色が広がっています。あくまでもお兄ちゃんがメインですけど。
「いただきます!」
ニコニコしながらお弁当を食べます。
「美味しいです」
「それはよかった」
お兄ちゃんは嬉しそうに微笑みます。その笑顔は全ての人類を虜にするほどの魔性の笑顔でした。
「くるみ? じっと固まってるけどどうしたんだ? 熱でもあるのか?」
お兄ちゃんは私のおでこに手を当てて心配してくれました。
「はっ!」
「どうした?」
「お兄ちゃんがかっこよすぎて思わず思考が停止してしまいました。ついでに時間も停止させてしまいました」
「時間? って、鳥が空中で止まってるんけど」
「はい。空間ごと停止させてしまったので、今この世界では私とお兄ちゃん以外の全ての生物の時間は凍結しています」
「とんでもないスケールだなそれ」
「すいません。つい……」
「いや、ついって……そういう規模の話じゃないだろ」
時間凍結魔法は魔王との戦いでも活躍した魔法です。私はこの魔法を習得するのに半年の時を要しました。寝る間も惜しんで練習していたので、今でもふとした時につい発動させちゃうのです。
「あっ、鳥が動いた」
「今解除しました。少し疲れたので昼寝をします」
この魔法は魔力の消費が激しいので使用後はとても疲れてしまいます。私はお兄ちゃんの膝にしがみつくと、眠りにつきました。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
お兄ちゃんの膝枕で眠れるなんて私は幸せです。
※ ※ ※
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
妹が寝たのを確認すると、俺は彼女の頭を撫でながら空を見上げた。
「元気になってよかった……」
誰もいない屋上で呟く。
「でもまさか異世界に飛ばされるとは思わなかったけどな」
完全に想定外だった。もしそれを知っていたら確実にこの方法は使わなかっただろう。あまりにもリスクが高すぎる。
「………………」
俺はかつての契約を思い出す。
——命がけで交わした魔王との契約を。
あれはおよそ2年前。ちょうどまひると同じくらいの年頃だっただろうか。
ある日突然、目が覚めると知らない場所にいた。そこには腰に剣を携えた騎士と思われる者や、豪華な衣装に身を包んだ貴族と思わしき者もいた。そう、俺は異世界に来てしまったのだ。勇者という肩書きで。
それからの日々はいわゆるお約束の展開で、俺は魔王を倒すために特訓した。いや、特訓させられたというべきか。正直魔王討伐なんて興味もなかったが、魔王を倒さなければ元の世界に帰さないと脅され、仕方なくする羽目になったのだ。妹のくるみを残してこの世界に永住するつもりなどなかったから。
そして異世界に来てから3年ほど経過した頃。ついに魔王と戦うことになった。
しかし俺は魔王を倒さなかった。貴族たちから聞かされていた本能のままに暴れる化け物というイメージとは違って、魔王はとても理性的だったからだ。
それから魔王と会話を交わした。数時間にも渡って話した。
その結果、俺たちは意気投合し、国に反感を抱いた俺は魔王とある契約を交わした。
それは……
魔王は死んだことにしてそのことを国王や貴族に伝えること。
そしてその見返りとして俺の願いをなんでも一つ叶えるということ。
契約が成立した後、俺はすぐに王都に戻り、魔王を討伐したと宣言した。それにより人類と魔王の戦いは終結したのだ。
こうして俺は元の世界に戻ってきた。不思議なことに異世界で過ごした時間は無かったことになっていて、付いていた筋肉も、伸びた身長も全てリセットされていた。
勇者ではなく、ただの一般人に戻った俺は願いが叶うことを信じて淡々と日々を過ごした。
そんなある日、妹のくるみの様子が突然変わった。訳の分からない発言をするようになったのだ。「戸籍を改竄した」だの「同じ高校に通えるようになった」だの、挙げ句の果てには「異世界で魔王を倒してきた」なんて突拍子もないことを言った。
……まさかと思った。心当たりがないわけじゃない。可能性としてあるかもしれないと考えてはいた。
なぜなら俺が魔王に願ったのは、くるみの体が丈夫になることだったからだ。
くるみは生まれつき体が弱い。そのせいで学校にもろくに行けず、非常に寂しい生活を送っていた。だからそれを何とかしてやりたいとずっと考えていたのだ。
その結果、くるみは異世界で最強の力を手に入れた。彼女曰く、ドラゴンすら素手で倒せるらしい。とんでもなく丈夫な体だ。
——くるみの体を丈夫にしてほしい
そんな俺の願いは確かに結果だけ見れば叶ったといえる。
まさか異世界に飛ばされるとは思わなかったがな。そんな形で体を丈夫にするなんて強引にも程がある。今度魔王に会ったら絶対にボコボコにしてやる。実現しないとは分かっていてもそう思わずにはいられない。
そんな昔話を思い出していると、くるみがあくびをしながら目を覚ました。俺の瞳を見つめると、満開の花のように美しく微笑む。
「ふぁぁぁぁ……おはようございます。おかげさまでいい夢が見れました。さすがお兄ちゃんの膝枕です」
「そうか。ならよかった」
「お兄ちゃんも眠くなったらいつでも私の膝で寝てくださいね」
「検討しておくよ」
「腕枕でもいいですよ」
「って、腕にしがみつくな」
「腕枕という言葉を発したら、どうしてもお兄ちゃんの腕にしがみつきたくなっちゃったんです」
「勘弁してくれ」
屋上から外の景色を眺める。
快晴の空と相まってとても晴れやかな街並みに見えた。
そんな景色には目も暮れず、くるみはじっと俺のことを見つめながら言ってくる。
「お兄ちゃんの腕にずっとしがみつけるなんて私は最高に幸せです」
くるみは笑った。その表情は言葉通り本当に幸せそうで、思わず笑みが溢れてしまう。
「俺も幸せだよ」
「私にしがみつかれるのがですか⁉︎」
「そんなわけないだろ! 元気なくるみと過ごせることが幸せなんだって」
「お、お兄ちゃん!」
くるみは感極まったのか体ごとしがみついてくる。
色々あったがこれからもずっとこうして過ごしていけるならば、結果的には幸せなのだろうと思った。もう異世界に飛ばされるのは勘弁だがな。
これからも兄妹二人で末長く平和に暮らしていきたい。
Fin
甘えん坊の妹は知らぬ間に異世界で魔王を倒していた とおさー @susanoo0517
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