花の色

花の色は うつりにけりな いたずらに


わが身世にふる ながめせしまに


            作 小野小町


訳 桜の花の色は、春の長雨が降っている間


  に衰え色あせてしまった。


  恋や世間について思い悩んでいる間に、


  ちょうど私の美貌が衰えたように。



黒板にこれでもかという大きさで描かれた


この歌は京也の心を魅了した


世界三大美女と言われるほどの美貌を持ち


多くの人を落としてきたであろう人の読んだ


歌とは思えなかった。


自分の美しさに誇りを持ちつつも時の流れに


は勝てないという謙虚さ誠実さが京也に


心地よく感じさせた。


もちろん過去の歌であり、小野小町にも会っ


たことがないため本当にこの歌を読んだかど


うかは怪しい。


それでもこの歌は、古典の苦手な京也でも


美しいと思ってしまうものであった。










この歌に見入っている間に授業は終わっていた。


まだ書ききれていないノートを見ながらも、


頭の中ではまだあの歌が居座っている


普段の7時間目の古典は-先生の声が独特とい

うこともあるが-


うつらうつらと頭を揺らしてしまう自分がいるのに対し


今日の授業はそれどころではない、心の底から溢れてくる何かがあった






終礼の時間になり今年で60になるという担任が


「さて、明日からの修学旅行だが...」


と修学旅行の注意点などを話していたが


京也の耳には届かなかった




その日の授業が終わったためか、


それとも次の日から始まるイベントの為か、


帰り際の生徒はこの日一番の盛り上がり見せていた。



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