第2話
ある日、定例の雑談が始まる前に会長が「ちょっと話が」などと言いながら、一枚のパンフレットを取り出したのだ。
「去年もあったんだけど、気づいたときにはもう締め切り過ぎちゃってたんだよね。今年こそはと思って。みんなでやってみない?」
文の甲子園というのは、三人連盟で原稿用紙五枚程度のお題に沿った文章を書き、応募して、各校で優劣を競うという趣旨のものだった。
「締め切りは?」
「九月三十日なんだけど、選考会もしたいから、ひとまず六月末とか」
「期末テストとバッティングしてるんじゃない?」
会員の一人が即座に答え、念のためなのか手帳を取り出し「やはり」と言った。
「じゃあ、終業式の日にしようか。その日のうちに印刷して、みんなに配って、夏休みの間に読んできてもらうの」
「休み中に読むかなあ? 夏休み明けでよくない?」
また違う会員が意見する。
「そしたら今度は県下一斉テストと被るでしょう」
「そんなこと言ってたら、活動なんてできないじゃん。ただでさえ、ここ、週に一回しか活動してないんだよ? 運動部なんて毎日やってるけど、みんな暇をみて勉強もしてるし、遊んでもいるし、いろいろやってるんじゃん」
「ある程度差があるのは仕方ないよ。そういう、時間をやりくりするのが好きな人たちが運動部に入ってるんでしょう。何十分だか十何分とかで結果が決まるようなゲームに精出してるんだから、どう時間を効率よく使おうかとか、いつも考えてるんじゃないの?」
また違う会員の意見に、みんなは頷きかけたかと思いきや、首をかしげる。
「そこまで考えてるとは思えないけど。ただ好きだからやってるんでしょう」
「じゃあ私たちは文章書くのが好きでやってるんじゃないの? 文章書くよりテストのほうが大事だってこと? だったら部活なんて辞めて、予備校でも行けばいいんだよ」
「そこまで言ってないけど、ほら、テストがあると、なんだか落ち着かないじゃない? だから、無理にそういう時期に締め切りを設定しなくてもいいんじゃないかなって思っただけ」
「でも高校生でいるからには、定期的にテストがあるのは当然だし、避けられないじゃん」
「さっきからテストテストってさ、みんなそんなに内申必要なわけ? 一般入試だったら、成績なんて全然関係ないじゃん」
「でもほら、一応答案が却ってきて、五十点とかなってたらショック受けるじゃん。なんとなく、七割……、まあ、せめて六割くらいは欲しいもんじゃない?」
みんなのやりとりを黙ってずっと聞いていた会長は、
「もういい、止めよう」
と言った。
「べつに止めることないんじゃない」
「そうそう、参加してみたい人だっているだろうし」
「たまにはこういうのがあったほうが、なんか部活っぽいよね」
みんなはまた勝手なことを言い出し、一応の活動時間が終わる五時半直前に、締め切りは九月一日ということに落ち着いた。
部活が終わる頃には図書室も締まっている。ネタ探しでもしようと思っていたので、ちっと思いながら校舎を後にした。
テーマは、「手紙」とのことだった。私は以前転校した経験があって、前の学校の友達と文通していた経験があった。高校に入る前に一度会い、それを機にやりとりは終わったのだったが。
不思議なもので、文通が続いたのは、必ずしもとても仲のよかった子とは限らなかった。私はひとまず、同じクラスだった子のうち、親交があったと思われる十数人の子たちに住所変更の知らせも兼ねて手紙を出した。事情が事情だけに、親に切手代を渋られることもなく、自分の懐は痛まずに手紙を出せた。その中で返事をくれたのは、ほんの数人だった。一月後くらいに、返事をくれた数人に、私はまた返事をした。それに対して返事をくれたのは、二人だけだった。そうして私は、その二人と文通するようになったのだった。一番よく遊んでいた子は結局返事をくれなかったので、引っ越してから一度も会っていない。
新たな学校に転校してからしばらく友人ができなかった私は、おそらく前の学校の友人からの手紙を心待ちにしていたのだろう。すごく親しかったわけではないけど、手紙だったら時間があるから、普通の会話だったらぽんぽん面白いことが言えなくても、じっくり考えてから返事が書ける。毎日相手の顔色をうかがったりする必要もなくて、その適度な距離がうれしかった。
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