スキルが見えた二度目の人生は超余裕、初恋の人と楽しく過ごしています(旧題:二度目の人生はスキルが見えたので、鍛えまくっていたら引くほど無双してた件)

破滅

本編

プロローグ

「うぐっ……」


 後頭部を金属バットで思いっきり殴られたような強烈な痛みと共に、俺こと佐島 靖はガクリと膝を崩れ落とした。

 脳梗塞か、血栓かは解らないが、これが命に関わる痛みだというのは解った。


「(きゅ、救急車を……)」


 呼ばないと!! そう思って、スマホの入った右ポケットまで手を動かそうにも、俺の身体は動いてくれはしなかった。


 ――あぁ、俺死ぬのか。




                   ◇



「はっ……!!」


 何かもの凄く恐ろしい夢を見た。


 黒いスーツに身を纏い、死んだ表情で始発と共に出勤し、終電が過ぎてから自宅に帰るゾンビのような男。

 そいつは、所謂ブラック企業に働いていて。ひたすらパソコンにテキストを入力するだけの、恐ろしいまでの単純作業を繰り返す日々を送っていた。


 思えばそいつはものを考えるのが苦手で、黙々と一人で単純作業を反復することが性に合っている奴だった。

 中学は陸上部で延々黙々と一人で走り続けていたし、高校のバイトだってキャベツの千切りや造花の内職、皿洗いなど、なるべく一人で黙々と同じことを繰り返すような作業ばかりやっていた。


 変わらない日々。コンピューターのような冷徹で面白みもないその男は、日に18時間にも及ぶ無理な労働が祟って、過労で死んだ。

 今も未だ、心臓が握りつぶされるような恐怖と苦しみが残っている。


 先ほどから『そいつ』なんて他人行儀で呼んでいたそいつは、恐らく俺自身なのだろう。

 ただ、見ていた夢は淡泊で面白みがなくて辛くて。

 そのくせ、妙にリアルで。夢と片付けるには、俺の知らない情報があまりにも多すぎた。


 冷や汗が流れる。

 不安と恐怖が入り交じる感情のままにくあっと目を開けると真っ暗だった。


 夜なのか。

 外の街灯の明かりが薄らと家の中を照らす。


 その照らされたカーテンは、スゴく見覚えのある模様で。しかし、そこにあるには酷く不自然なものだった。


「(なんで、このカーテンが。……これは、既に捨てられたはずのものなのに)」


 バッと立ち上がる。

 布団の下は畳で、頭の上にはふすまがある。

 俺はフローリングの家に一人で住んでいて、寝床はベッドの上だ。ここはどこだ。暗くてよく見えないのに構造が解る。

 ここは俺の家なんだと妙に信頼している。


「どうしたの、やすくん。トイレ?」


「お、お袋!?」


「なぁに、お袋なんて変な呼び方して」


 声がシルエットが妙に若かった。少なくとも、今年で五十越える母親には見えないし、それに今日は俺の家にお袋は来ていないはずだ。

 それに、寝ぼけ眼を擦りながら立ち上がったお袋は俺の倍はあろうかと言うほどに大きかった。


 いや、違う。俺が、小さいのか?


「おふ……お母さん! ……今日何日?」


「何日って、十二月の十五日……もう十二時過ぎちゃったから十六日じゃない?」


 日付は、合ってる。

 俺が最期に、会社から帰る前に日付が変わってるなぁと思いながら確認したのも十六日だった。


「な、何年?」


「何年って、平成十二年――2000年でしょ?」


 に、2000年!?!?

 今は令和二年。2020年のはずなのに!!


 いや、なんとなく気付いていた。


 なんとなく解っていた。

 だからこそ、俺はあの出来事を――26年にも及んだ人生を夢だなんて称したし、態々このやたらと若い母親に年号まで聞いたのだ。


 そう。間違いない。俺は――20年前、6歳だったあの頃に戻ったんだ!!


 そして同時に俺は確信する。

 これは夢だ。もしくは、心臓が苦しいままに俺が見ている走馬燈だ。


 だって、そうじゃなきゃおかしいだろう。


 俺の掌を見つめている間に映り込んだ、これ



名前 佐島 靖

Lv 1

職業 なし

スキル 『鑑定 Lv1』

固有スキル『反復試行』



 このゲームのステータスウィンドウのようなもの。


 こんなのが浮かび上がるなんてそんなの現実じゃない。

 俺の脳も、毎日毎日同じようなテキストを打ち込み続けてとうとうおかしくなってしまったのだろう。

 俺はため息を吐く。


「(人生をやり直したいだなんて、何度も思ったけど。こんな夢を見るなんて相当病んでるな)」


 ただもしこれが夢って言うのなら、寝て起きたら醒めているものだろう。


 明日も仕事があるし、それに一日3時間しか取れない睡眠時間はとても貴重だ。一秒足りとて無駄にはしたくない。


「寝るか。お休み」


「え? ええ!?」


 俺に起こされて、棒立ちしていた母親は再び布団に入って眠り始める俺に戸惑いを見せていた。

 

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