同じ景色
竹内 ヨウタ
同じ景色
「東京の大学に行こうと思ってるんだ」
帰り道。いつもの道を二人で歩きながらサラッと、何事もないかのようにそう言われた。
高2の秋だった。進路について考えてもおかしくない時期、私も地元の専門学校か短大に行こうと思ってた。特別頭がいいわけでもないし、そもそも地元を離れるという事は頭になかったんだと思う。
2人で手を繋いで帰る帰り道、私の進路について話した後、ふと気になって卒業後どうするのかを聞いてみたら、そう言われた。
「え?東京に行っちゃうの?」多分私はそう聞き返したと思う。
「じゃあどうするの?私とは高校卒業したら終わり?」そう言われたわけではなかったけれど、そんな意味合いでとらえてしまった私の頭は、思った事を口にしていた。
「バカ!勝手にすればいいじゃん!」そう言って、繋いでいた手をふりほどいて、その場から走って帰宅した。
その日の夜、彼の言葉を頭で繰り返しながら、悲しくなって目に涙を溜めて、今日の自分の行動を後悔した。
リミットのある恋愛のような気がして感情的になったけれど、私が地元を離れる事が頭になかったように、彼には彼の将来があって、色々と悩んで、それで出した答えなのかなと冷静になった頭で考えた。
思い返せば、彼はいつも私の事を一番に考えてくれて、優しくて、笑顔で見守ってくれてるようで。それに甘えて私は自分のことしか考えていなくって。彼の心を今まで少しもわかろうとしたことがなかったかもしれない。
それでもそんな私を彼はいつも優しく見守ってくれてて、見慣れたいつもの帰り道を一緒に手を繋いで歩いてくれていた。私のペースで、ゆっくりと。
次の日、その次の日と、学校で彼の姿を見つけると、なぜか物陰に隠れるように身をすくめて見つからないようにして、授業が終わるといつもの待ち合わせ場所とは別の場所から学校を抜け出して、一人で歩いて帰った。
友達が彼に私の事を聞きに来てたよって言われたけれど、体調が悪いって伝えてと言って、理由も言わず、何となく彼を避けて過ごしていた。
それから私は、しばらく学校での彼を目で追ってみた。休み時間、移動教室の時間、校庭での体育の授業中。
友達と接する彼は、いつも通りのように見えた。
私がいない彼の世界は、何も変わっていないようだった。
それが少し寂しく感じたけれど、毎日授業が終わると彼は私の教室に来て、私を探して帰る事を友達から聞いて。勝手に怒って勝手に避けて、それでも彼は毎日私を探して放課後私の教室に来てくれてた。
その事が苦しくて、耐えられなくて。そして、私はやっぱり彼の事が大好きで。
彼を避けてから2週間、授業が終わってから、初めて私が彼の教室に行った。
彼の姿を見つけると、彼も私に気付いて、少しびっくりした表情をしたけれど、またすぐにいつもの彼の表情になってそばに来てくれた。
「一緒に帰ってくれる?」そう私が彼に言うと、彼は優しく笑いながら「一緒に帰ろう」と言ってくれた。
いつもの帰り道。いつも私が騒がしくして、周りの事なんてあまり目に入らなかったけれど、今日はいつもと違っておとなしく彼の隣を歩いてて。
なんか気まずさがあったのだけど、そんな空気を察したかのように彼は私の手をとって「この前は突然でゴメンね」そう言って優しく手を握ってくれた。
違うよ、悪いのは全部私なの、それなのに謝らないで、全部私のせいなのに。
心の中でそう思っていたのを見透かしたように、彼が話した。
「この道を2人で歩く時間が俺はすごく好き。手を繋いで、のんびり歩いて、話を聞きながら。」
優しい笑顔でそう言ってくれた。
その時私はなんとなくだけど気付けた。彼はいつも私に合わせて、私のペースで、私の隣にいてくれた。自分勝手の私の為に自分のペースを崩しながら私に合わせてくれていた。ホントは私なんかよりもずっと前を歩いているのに、私の横にいてくれた。それで優しく見守りながら、私の手を握ってくれていた。
ゴメンね、気づけなくて。ゴメンね、わがままで。
私もこの時間が好き。何もない田舎道だけど、あなたと一緒に歩くこの道が好き。あなたと手を繋いで観る景色が好き。だからこの先もあなたと一緒に同じ景色を見ていたい。
今まで私のペースで歩いてくれていたけれど、今度は私があなたのペースで歩きたい。あなたの横で、あなたと手を繋いで、同じ景色を見たいから。
「私も東京の大学に行く!絶対に!」そう言って彼の手をギュっと握った。
突然だったから彼は少しびっくりしてたけど、またいつもの優しい笑顔に戻って私の手を握り返してくれた。
彼と一緒に同じ景色を見ていたいから、絶対に同じ大学に入る、自分にはかなりハードルが高いけど、絶対に合格する!絶対に、何が何でも!
そう思った私は、その日の夜から体中にカンニングの入れ墨を入れる決心をした。
同じ景色 竹内 ヨウタ @takechi05
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