頼りになる先輩
先輩に全てを打ち明けた。
この前の任務で先輩とテレシアの足を引っ張ったのを申し訳なく感じていることや、命を賭けた戦いを楽しむ一面があることを。
真剣な表情の先輩は時折頷きながら、相槌を打たずに俺の話を黙って聞いていた。
「う〜ん、なんていうか、後輩くんって気負いすぎじゃない?」
俺の話を聞き終えて、どこか困ったように眉を八の字にした先輩が口に出したのは思いもよらぬ言葉だった。
「気負いすぎ……ですか?」
「そーそー、気負いすぎ。この前の任務はさ〜、あんな立地で奇襲なんて土台無理な作戦だったんだよ。失敗するのが当たり前。敵に信号弾を撃たせなかったテレシアちゃんが化け物なだけで、後輩くんに落ち度はないよ」
そう言った後に先輩はフォークでパスタをくるくると巻いて口に運ぶ。
次いで、分かりやすく頬を綻ばせた。
「後輩くんはよくやってる方だと思うよ。生き残りの女の子に被害が及ばないように冷静に立ち回れて、敵のエース級をしっかり抑えられてたし」
笑みを浮かべた先輩のその言葉を聞いて、俺は心の中でほっと息をついた……が、安心はできない。
肝心の話がまだ残っているのだから。
「でも、やっぱり戦闘を楽しんじゃったのはあまり良くないかも」
「やっぱりそうですよね……」
「……なんてね。別に私は良いと思うよ。戦闘を楽しんで」
「え……?」
思わず、間抜けな声が口から漏れた。
先輩が口にした言葉が信じられない。
「えーと、いや、ちょっと良いって言うのは言葉のあやかもな。私は別に気にしない……って言うのが正しいかもな」
「先輩が気にしない理由を聞いても良いですか?」
「魔導騎兵に乗って戦う理由なんて人それぞれで良いと思うし、何より後輩くんは自分の中で折り合いがしっかりとつけられる人。そういう認識が私の中にあるから……かな」
曇りのない笑顔で先輩はそう告げた。
彼女の言いたい事はよくわかる。
要するに、戦いを楽しむ感情を持つのも良いが、それはそれとして任務もしっかりこなせ……と、そう言いたいのだろう。
だが、俺は……。
「確かに今回、後輩くんは戦いを楽しむのを優先しすぎちゃったかもしれない。でもさ、失敗なんて誰にでもあるよ。大事なのは失敗を失敗のままにせずに、次に活かすことじゃないかな」
思考を読まれた。
先輩はもしかしてエスパーか?
いや、それとも……俺の親父のような「超越者」とかそういう類なのだろうか。
確かに、先輩の過去を鑑みると、そういった能力があってもおかしくは……。
「そんなのじゃないよ。後輩くんは考えることが顔に出過ぎ。きっと諜報活動とか出来ないタイプだねえ……ていうか、せっかく良い事言ったんだからそっちをもっと気にしてよ!」
先輩は頬を膨らませてぷんすかと怒る。
その様子は幼い子供のようで何処か愛らしい。
……先輩が癒しを提供してくれたお陰で、思考がクリアになった気がする。
確かに先輩の言う通りだ。
俺は、気負い過ぎていたのかもしれない。
訓練校を次席で卒業して、初めての任務では機器を脱する事が出来て。
何よりも、偉大な英雄だった親父の息子であるという驕りがあって。
自分は特別な人間であると思っていた。
そういう一面が無かったと言えば嘘になる。
所詮、俺は実践経験のない新人なのだ。
今回の失敗を忘れる事なく、次に活かせば全く問題はない……という訳にもいかず、これで根本的な疑念が解消した訳ではない。
俺が己の愉悦を優先した前例が出来てしまった以上、先輩を始めとした部隊の皆に絶対に迷惑をかけないと言い切れなくなったから。
でも、もう少しだけ、自分を信じてみたい。
先輩のおかげで、そう思えた。
「本当に……ありがとうございます。先輩」
「全然大丈夫だよ!これからも頼りになる先輩をいっぱい頼ってね!」
先輩は胸を張る。
彼女は年下で、振る舞いも幼げであるが……それでも、やっぱり、経験豊富な先輩であるのだ。
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