絶体絶命

絶体絶命のピンチが訪れている。  

 

このままだと俺は確実に死ぬ。そう察知した俺の心臓はどくどくと早鐘を打っていた。

 

ブレードを放り出してしまったため、盾しか持っていない今の状態では敵機にコックピットを潰されるのは時間の問題だろう。

 

しかし、俺は至って平静を保つことができていた。

 

……なぜなら、俺が搭乗しているガラドにはこんな時のためにが備え付けられているからだ。

 

リーゼロット隊長と初めて訓練を行った際に彼女から頂いたアドバイスをいち早く実行に移した俺は我が騎士団の整備班に話を通し、とある兵装を俺のガラドに装着してもらっていたのである。

 

そんな俺は落ち着きながらも迅速に、敵の機体のメインカメラの箇所に標準を合わせた。

 

緊張はしているが不思議と焦りは全く無い。

 

自分にできる限りの準備を済ませて、俺は敵の機体にガラドの奥の手が最も有効に作用する時を冷静に待つ。

 

すると、倒れている俺の機体にとどめを刺そうと、敵が片手持ちのアックスを全力で振りかぶった。

 

俺が抵抗できないと考えているのか、敵の攻撃の動作は余裕に満ち溢れており、付け入る隙が微かに生じている。

 

……チャンスは今、この瞬間しかない。

 

「……ッ、喰らいやがれ!!」

 

そう判断した俺は機体の右肘に備え付けられていたパイルパンカーを敵機に向かって勢い良く射出する。

 

……が、俺の奥の手に驚く様子を見せない敵機は後退する事であっさりとパイルパンカーを回避した。

 

すんでのところで行われた敵の回避行動によって、俺が射出したパイルパンカーは着弾こそしなかったが、僅かに生まれた隙に乗じてすっかり体勢を立て直した俺はブレードホルダーに装備された予備のブレードを引き抜き、間髪入れずに敵機に攻撃を仕掛けた。

 

ここで、敵のコックピットを華麗に貫けたのならカッコいい感じで戦いを終えられたのだが、現実はそう上手くいかない。

 

どうやら、相手もかなりの実力者らしいようで、俺が振るったブレードはあっさりとアックスで受け止められる。

 

それによって、俺のガラドと敵のジダルがまるで鍔迫り合いのようにブレードとアックスを互いに押し合う形になった。

 

出力は最新型の魔導兵器であるガラドの方が上だ。このまま力比べをしたら負けるのは敵の機体だろう。

 

そう考えた俺は、ガラドを操縦するレバーを握る手に力を込める。

 

しかし、確実に機体の性能は最新型である俺のガラドに軍配が上がる筈なのに、何故か俺は敵の機体に押し負けつつあった。

 

……この状態は新米パイロットの俺よりも、相手の技量の方が上であるという事実を端的に表している。

 

恐らく、戦闘経験がまだ浅い俺が知り得ない魔導騎兵の扱いのコツを敵は心得ているのだろう。

 

それは、訓練校の教本に載っているものなどでは決してなく、数多くの戦場を生き残ってきた猛者にしか身につかない確かな経験に裏打ちされた技術なのだ。

 

……面白い。

 

そんな不純な思いが俺の心の中に生まれる。

 

この感情は俺の初出撃の際に、植物型の魔物と相対した時に感じた激情と殆ど同じだ。

 

これは、人々を守るために戦う騎士として感じてはならない衝動であるのは俺も重々承知している。

 

そして、一般人の死人が既に数多く出てる状況下においての戦闘でこんな感情を持つのは限りなく不謹慎だろう。

 

いったいいつから俺はアニメや漫画で登場する包丁をペロペロしてそうな戦闘狂キャラのように、命を賭けた戦いに興奮する変態になってしまったのだろうか?

 

それに加えて、俺のような闘争の中に愉悦を感じるような人間に帝国の政策に対して憤りを覚える資格があるのだろうか?

 

……どちらも非人道的であるのは変わらないのに。

 

上記の他にも、似たような疑問が俺の脳裏に流れては消えていく。

 

そういった脳内問答を経て、俺の脳みそが出したのはこんな思いを抱くのは間違っているという結論だった……が。

 

……それでも、俺はこの溢れ出す激情を抑える事が出来なかった。

 

この感情に身を任せて戦うのは絶対に間違っている。間違っているのを分かってはいるのだが……。

 

……たった一回だけだ。

 

この戦闘だけは自分の心に従って、余計な事は考えずに純粋に戦いを楽しもう……と、愚かな俺はそう心に決めてしまったのだった。

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