帝国の脅威
第7小隊に入隊した日からあっという間に数日が経過した。
同期のテレシアと模擬戦をしたり。
ベルラ先輩に手料理をご馳走になったり。
リーゼロット隊長と共に訓練に励んだり。
そうやって過ごす日々は訓練兵時代に男友達と一緒に筋肉を痛めつけてばかりいた俺にとって、恵まれた毎日だったと断言できる。
そして今、俺は輸送機に揺られながら魔導騎兵「ガラド」の状態を確認し終えたところであった。
……ついに、人生で2回目となる出撃の時が訪れようとしている。
今回戦う相手は魔物ではない。
俺と同じ人間だ。
任務の内容を率直に言うと、魔導騎兵を所持している山賊の討伐である。
……いや、山賊という表現は語弊があるな。
俺達、第7小隊が戦う相手はただの賊ではない。
帝国の軍人崩れだ。
脈絡なく突然ではあるが、この場を借りて帝国がどんな国かを簡潔に説明しよう。
この帝国と呼ばれる国は、一人の支配者が統治する国家形態であり、魔導騎兵はこの国が発祥だ。
国土の規模は然程大きくないものの、人口はかなり多く、異世界転生者が主導して開発する機械工業によって、帝国は世界でトップクラスの豊かさを保っている。
そして、帝国に在住している者で、何らかの功績を残した有能な人間には、君主から直々にあらゆる特権が与えられる。
しかし、それに反して結果を出せない無能な人間にはとことん厳しいという点が、この国の最たる特徴だ。
……ここまで聞けば、本人の素質次第で成り上がる事ができる良い国のように思えるが、帝国の実態はそうではない。
帝国には階級制度が存在し、それは大きく三つに分けられる。
まずは異世界転生者。
出身等は関係なく、この国に永住する事を決めた異世界転生者は無条件でかなりの高待遇を受けれるらしい。
次に、上流階級。
帝国に一定の税を支払う事でこの階級に位置する事ができる。
この階級の人々は学校に通った後に自由に職業を選択できたり、奴隷を購入できるのに加えて、下流階級の人間を殺しても罪に問われないなど、これらの他にも様々な権利が与えられる。
最後に、下流階級。
この階級の人々はまともな教育を受ける事ができない。
そして、魔導騎兵やその他の機械を生産する仕事やそれらの機械の原材料となる鉱石の発掘作業などの重労働に、生まれてから死ぬまで従事する人間が大半を占める。
その上、この階級の人々は一般的な教養を持ち合わせていないので、成り上がるチャンスは無いに等しい。
それから、下流階級の人間に人権なんて物は存在しない。
この階級に生まれ落ちてしまったら、どう足掻いても上流階級や異世界転生者の人々に一生虐げられ、一方的に搾取され続けるのが決まっているのだ。
それでも、下流階級の人々は社会に反抗することは一切ない。
なぜなら、帝国が行う徹底的な情報統制によって自分はゴミのような存在で、自分達より階級が上の人間に酷い仕打ちを受けるのはこの世の道理であると認識させられているから。
そして、どの階級に位置する人間でも帝国の政策に少しでも反発したら、問答無用で死刑が執行される。
ここまで長々と語ってしまったが。
要するに、産まれた瞬間から勝者と敗者が決まっている人間の悪意を煮詰めたクソみたいな国が帝国なのである……と、俺は声を大にして言いたいのだ。
……因みに、帝国を創設したのは、異世界転生者である。
そして、帝国の頂点に独裁者として君臨しているのはずっと異世界転生者であり。
その影響で異世界転生者に対する圧倒的な優遇措置が施されているらしい。
何らかの要因でこの世界にやってきた転生者が、科学の代わりに魔力や魔法を用いて開発した……魔導騎兵を始めとする文明の利器。
それらも最初は、魔物の対抗策や生活の水準を上げるためなどの目的で作られた物である。
しかし、その技術を己の利益の為に利用した帝国の創設者である異世界転生者の所為で、多くの人々を苦しめているのだから酷い話だ。
……大分、話が逸れたが、上流階級の人々であっても帝国に住む人間であれば、幼少期に洗脳じみた教育を受けており。
彼らは他国の人間をとことん見下している。
そのため、帝国を何らかの理由で追われた人間は他国の領地に無断で侵入し、犯罪行為に及ぶ事例がとてつもなく多い。
そして、先述した理由から彼らはその行動に一切の罪悪感を感じないので、厄介極まりないのだ。
今回はよりによって、帝国から追い出された軍人崩れの集団が複数の魔導騎兵を用いて王国の領地に侵入し、近隣の村で略奪の限りを尽くしている。
彼らが襲った村の男は例外なく皆殺しにされており、女子供は奴隷として売買されるらしい。
……こんな非道な行いが罷り通って良い筈がない。
他にも被害者が出る前に一刻も早く奴らを討伐しなければ……。
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