1-9 全身チートの森の王と、神々の悪戯
「ところでさっきの水の魔法はいつ覚えたんだ?」
「それ、聞く? ……その、おもらし、したの、早く洗い流さなきゃと思ったら、習得できた」
「……悪い」
だが、それが本当なら改めて、ルリは凄い。
ファイア・ウォールの時といい、『必要な時に必要な魔法を習得している』ように感じる。
ルリがいれば、この状況も何とかなるかもしれない。
わずかだが、希望はある。ないよりはマシだ。
トン、トン
森林王がその巨大な脚で、地面を軽く鳴らす。
周囲に張られた結界の輝きが増し、森林王自体も金色の光を纏う。
「ルリ、あれは?」
「解析。『生殺与奪の結界:自身の半径100mに回復魔法・スキルの発動を封じる上級結界を張る』。もう一つ、覆っている方のスキルは詳細がわからない。多分、まだ『効果の発動』はしていないんだと思う。私たちと距離を空けた隙に、2つスキルを発動された」
森林王は動かない。祈りを捧げるように、空に顔を向けているのみ。
「まさかあいつ……こうやって無尽蔵にスキルを重ね掛けしていくつもりじゃ……」
ただでさえ、絶対的な力の差がある。
それでもなお、その差を広げ続ける。
まるで、不敬を働いた下等生物が絶望するのを楽しむかのように。
それが『王の狩り』とでもいうかのように。
「いい加減にしろこの野郎!」
ツバサが森林王目掛け、気刃を放つ。
王は気にも留めない。
直撃、しかし、ダメージは1。
「アイアン・フィスト」
続けてルリの魔法。鉄のこぶしが王の顔面を不敬にも殴りつける。
しかし、こちらもダメージは1。
「……わかった。あの体を覆っているのは『神威:中級以下の魔法・スキルによるダメージを1に留める』。攻撃を受けたことで発動したから、詳細がわかった」
「は……?」
HP5150の上にダメージは1しか通らないとすると、単純に考えると5150回攻撃を当てる必要がある。
あまりに非現実的だ。
「上級魔法、スキルなら通るんだよな? ルリ、上級魔法とかって……」
「……使えない。1つも。そもそも、上級魔法、スキルはAランク冒険者が持つようなレベルのもの。仮に今、覚えられたとしても、おそらく、MPが足りない」
ツバサが言及したかった事をルリが先取りする。
希望の1つは、ルリの魔法習得にあった。だがそれも、上級でなければ意味がなく、かつ、もし覚えたとしても発動ができない。
絶たれていく。希望が。1つ1つと。
「――なら、物理攻撃を試したい。俺が斬りこむ。すなまいが守ってくれ。あいつの攻撃受けたら、俺、多分死ぬから」
ルリの返事を待たずにツバサが斬り込む。ルリならやってくれる。命を任せたんだ。もし死んでも文句は言わない。
視界の外に回り込むように接近。
王はその姿を追うように顔を少し動かす。
(視た? なんでだ?)
しかしそれ以上、身体を動かす様子は見られない。
王の前足を剣で横に薙ぎ、そのまま走り抜けようとするが――。
――キィン
「ぐあっ!」
剣がはじき返され、ツバサは体制を崩す。
王は虫けらを踏み潰すように、その足をゆっくりと掲げる。
「ファイア・バレット。アゲイン、アゲイン」
そこにルリの魔法が炸裂する。炎の弾丸が3発。
王の動きがわずかに鈍る。
「アイアン・ツイン・ハンド」
ルリが両手を前に出す。ツバサの眼前に巨大な石の手が2つ出現し、片方は振り下ろされる王の足を受け止め、片方はツバサを掴み、王から引き離す。
王の足を受けた方は粉々に砕けるが、ツバサは退避に成功。
「スキルの発動を確認。『不敬:自身の対象部位への物理攻撃を1秒間反射する』」
こちらを見たのは発動部位を決めるためか。
王のHPは5145。
物理攻撃への対策も万全。
ふざけるな、この全身チート野郎が。
「まだだ!」
ツバサが気刃で大木を1本切り倒す。
「ルリ、今のでこれを投げろ!」
「! わかった」
ルリは意図を察したように再び『アイアン・ツイン・ハンド』を発動。
ツバサが倒した巨木を岩の手で掴み、王の胴を目掛けて投げつける。
それはもちろん弾かれ、巨木が粉々に砕け散る。
が、そこにもう1本、巨木が投げつけられた。
ツバサが追加で斬ったものだ。
初めて、王の纏う空気に動揺が見えた気がした。
直撃。HP5135。
2本目の巨木は王の横っ腹に命中した。
(予想通り……!)
『自身の対象部位への物理攻撃を1秒間反射する』
穴があるとすれば、その『1秒』だった。
発動が意識的に行われ、時間定義が無限ではないという事は、その1秒の直後は同じスキルを発動できないのではないか、と、ツバサは仮説を立てたのだ。
トライアンドエラー。ゲームの基本だ。
クリアできないゲームはない。製作者は必ず、『攻略法』を用意している。
無論、この世界はゲームではない。
しかし、神とやらがこの世界にはいて、スキルや魔法はその神が与えたものだという。
であれば、『絶対無敵』の能力なんて、あるはずがない。
そんな確証はないが、ツバサはそこにベットし、当てたのだ。
ある程度、自分の信じたものに賭ける。そうでないと、前には進めない。
人生とはそういうものだと、ツバサは理解していた。そして――。
『スキル習得:スキル・ドロー』
そんなツバサに、神が応えた。
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