異世界転生した瞬間に無口で無表情な銀髪美少女と衝突して互いに記憶を失った話

ヤミヤミ

1章 俺のステータスは平凡だけどデッキからスキルをドローできるらしい

1-1 異世界転生したものの何だか散々で

自分はいわゆる、異世界転生というやつに遭ったらしい。

「遭った」というのも変な表現だが、多分これは「現象」としてカウントしていいものだろうから多分正しい。


高校2年生、17歳の夏。学校からの帰り道でトラックに轢かれた俺、ツバサは突然どこかの未来から来たロボットが時空を移動してる時の空間のような、何やらぐにゃぐにゃとしたホールを抜け。


着いた先――異世界、でいいだろう――の大地に向け真っ逆さまに落下していた。


「はぁ!?」


何かチートスキルを与えてくれる女神やら何やらが一切出てこず、いきなり異世界に放り出されたのは百歩譲って良しとしよう。

が、よりによって真っ逆さまに放り出されるのは酷くないか!?

と思った刹那、ゴツンと頭に衝撃。何かにぶつかったらしい。

そのまま、ツバサは地面にバタリと倒れる。頭が割れるように痛いとはこの事か…と思いつつ頭を押さえて立ち上がると。


「……」


目の前に少女が倒れていた。

歳は自分と同じ17歳くらいだろうか。髪は銀のロング。背は歳の割に低めで、白いローブを纏っている。


「お、おい、大丈夫か!?」


声を掛けると、少女は頭を押さえて身体を起こした。

ん……頭?

おいちょっと待て。これもしかして俺がさっきぶつかったの、この子の頭か?

俺、この子の上に落ちてきちゃったの!?


「……大丈夫。あなたは?」


少女は澄んだ声でそう言った。透き通った水色の瞳、整った顔立ち。

えらい美少女がそこにいた。ただ……胸は控えめだな。


「俺はツバサだ。あんたは?」


「……そうじゃない。あなたは何で、空から落ちてきたの」


……。

そりゃそうだよな。俺の名前なんかよりそっちの方が気になるよな。正しい反応だ。

かといって、素直に「異世界転生してきました!」と言うのもどうなんだろう。絶対にややこしいことになる。

幸い、服は前世のものではなく、ファンタジーPRGで村人とか旅人が着るような服に代わっているし、腰には剣もある。

転生してきたという事は伏せても問題はなさそうだった。


「それが、俺にも良くわからないんだ。気づいたらこんな事に……それと、すまん、俺のせいで頭打ったよな。怪我はないか? 大丈夫か?」


とりあえず微妙に話を逸らす。


「キュア」


そう「唱える」と、光が少女を包み込む。


「大丈夫になった」


今の、回復魔法ってやつか?

とりあえず、この世界には魔法――この世界で何と呼ぶかはわからないが――がある事はわかった。

それにしても何だこの反応は。コミュニケーションに微妙なズレがあるような気がする。


「そ、そうか。大丈夫ならいいんだ」


「ツバサ、あなたは平気?」


「ん……? そういえば、もう痛みはないな。大丈夫だ」


結構な衝撃だったが、気づけばもう痛みはなかった。

前世でも味わった事のないような痛みだった気がするが、転生して肉体も少し変わっているのだろうか?


「なら良かった。私は……私は?」


「おい、どうした!? やっぱり痛むのか?」


少女が再び頭を押さえてしまったので、ツバサは慌ててそう聞いた。


「違う。痛みはない……けど」


「けど?」


「……。思い出せない。何も」


「何も!? え……名前とか、自分がさっきまで何してたとか、何も?」


「どちらも……わからない」


……マジか。マジでか。

原因は、さっきの衝突と考えるのが妥当だろう。

て事は、この記憶喪失はツバサのせいな訳で。


「す、すまん! 俺のせいで……」


「いい。それより、あなたは平気?」


「ん? 俺は……」


この子が言っているのは、ツバサも記憶喪失になっていないかという事だろう。

自分は大丈夫だと思うが……名前も、異世界転生してきたこともわかるし。

その前の、前世の事も覚えている。

自分が生まれた家、両親の事、小学校、中学校、高校の事。

趣味はゲーム。特に好きなものはファンタジーもののアクションRPG。だからこの状況には少しわくわくしていたりする。

友達は……多い方ではなかったかな。ネットにはいっぱいいた。

うん、思い出せる思い出せる。


「俺は大丈夫みた、」


そう言いかけて、頭にズキンとした痛みを感じて頭を押さえる。

脳裏によぎるのは、前世最後の光景。

目の前には絶賛走行中のトラックの正面。

それを見て、ツバサは逃げるでもなく……。


力なく笑って、そこに飛び込んでいたのだ。

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